Anthropic は2026年7月28日、Claude Mythos Preview が暗号アルゴリズム自体の数学的欠陥を発見したと公表しました。
インターネットの通信を守っている暗号アルゴリズムに、AIが人間の専門家が見落としていた欠陥を見つけた、という発表です。実装のバグではなく、アルゴリズムの数学そのものに踏み込んだ点が今回の新しさです。本記事は、EC支援19年・5,000社超の実績を持ち、AI導入支援は2023年から提供する株式会社オルセル(うるチカラ運営)が解説します。現時点で稼働中のシステムに影響は無いとされていますが、AIが研究レベルの数学を担い始めた事実は、暗号に限らず今後の技術動向を左右します。
転換点1:HAWKとAESで何が起きたか
結論から書くと、破られたのは2つ、いずれも実運用前または研究用の縮小版です。Anthropic の研究ブログによると、1つ目はHAWKという耐量子デジタル署名方式への攻撃です。HAWK はNISTが進める追加署名方式の第3ラウンド候補で、2年にわたり2ラウンドの専門家レビューを通過してきました。それを Mythos は約60時間で改善し、実効的な鍵強度を半分にしています。小さい HAWK-256 の鍵復元コストは2の64乗と見積もられていましたが、2の38乗まで下がったと報告されています。
2つ目はAESへの攻撃です。ただし対象は全10ラウンドのAES-128ではなく、研究用に7ラウンドへ削った変種です。Mythos は「Möbius Bridge」と名付けた新しい指紋化アルゴリズムを考案し、従来最良の中間一致攻撃を200倍から800倍まで高速化しました。前提として2の105乗という非現実的な数の選択平文を必要とするため、実務上の脅威にはなりません。HAWK は未配備、AES は縮小版という条件付きであることは、報道を読むうえで外せない前提です。
転換点2:60時間と10万ドルという単価
注目すべきは成果そのものより、かかった時間と金額です。両方の結果とも、開発に要したAPIコストは約10万ドルと開示されています。AES 側の攻撃はほぼ完全に自律で発見されており、人間が与えた実質的な指示はわずか3通でした。しかも初期の Claude は取り合わず、「AES-128 r5/r6 is just genuinely hard」と返して手を止めていたと記されています。研究者が「新規性のあるアイデアを探せ」と方向づけた結果、3日で数億トークンを消費し、最終的に累計10億出力トークンを経て Möbius Bridge にたどり着いたとのことです。
言い換えると、数十年分の専門家レビューを通り抜けてきた設計に対して、10万ドルと数日で新しい攻撃が見つかる時代になった、ということになります。実際に Anthropic は追加でLEA暗号の13ラウンド版について、2の30乗未満の平文で、通常のデスクトップで1時間以内に鍵を復元する攻撃も得たと報告しています。Serpent-128 の6ラウンド版、Salsa20、Poseidon、SHA-1 でも小さな改善が出ているとのことです。
転換点3:ボトルネックは発見から検証へ移る
今後の焦点は、AIが出した結果を人間が検証しきれるかどうかです。Anthropic 自身が、AES 攻撃の正しさを確認するために研究者2人でおよそ1か月、数百時間を費やしたと書いています。発見に1週間、検証に1か月という比率は象徴的です。脆弱性の分野では既に、AIが見つけるバグの量に人間のトリアージが追いつかない状況が指摘されており、同じことが暗号研究でも起きると同社は予測しています。
こうした流れを追いやすくするため、ETH Zurich、テルアビブ大学、ハイファ大学と共同でCryptanalysisBenchというベンチマークも公開されました。HAWK 攻撃については論文とデモコード、AES 側も論文が同時に出ており、第三者が追試できる形になっています。開示は責任ある手順を踏み、HAWK の設計者へは6月に共有、NISTの公開メーリングリストへ同時に告知されたとされています。
日本のEC事業者が今日の運用を変える必要は、現時点ではありません。ただし決済やTLSを支える暗号は、量子計算機を見据えた移行が数年単位で進む領域です。Google も暗号移行のタイムラインを公開しています。自社カートや決済代行の契約更新のタイミングで、耐量子暗号への対応方針を事業者側に確認しておく程度の備えは、無駄にならないはずです。具体的な移行時期は各社の発表待ちであり、現時点では要確認とします。
まとめ
Anthropic の発表は、AIがアルゴリズムの数学的欠陥まで見つけられる段階に入ったことを示しました。稼働中のシステムへの影響は無く、対象も未配備の HAWK と縮小版 AES に限られます。それでも、60時間と10万ドルで既知最良の攻撃が更新された事実は重く、これからは発見よりも検証が希少資源になります。派手な見出しに引きずられず、条件と前提をそろえて読む姿勢が要ります。
参考文献
- Discovering cryptographic weaknesses with Claude(Anthropic)
- HAWK 鍵復元攻撃の論文(Anthropic)
- NIST Additional Digital Signatures Round 3
- CryptanalysisBench(arXiv)
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引用元: Anthropic
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。