主要AI16モデルはいずれも画像認識テストで正答率60%に届きませんでした。
Moonshot AI の Kimi チームが公開したベンチマーク PerceptionBench の結果です。推論力や知識ではなく「画像を正しく見る」能力だけを切り出して測ったところ、フラッグシップ級を含む16モデルが軒並み6割未満で並びました。商品画像から説明文を自動生成したり、ラベルの文字を読み取らせたりしている店舗にとって、AI 画像認識の限界がどこにあるかを具体的な数字で確認できる材料です。本記事では結果の要点と、日本のEC事業者が今すぐ見直すべき運用ポイントを整理します。

AI 画像認識だけを切り出したベンチマークで全モデルが6割未満
PerceptionBench は、既存の42ベンチマークでフラッグシップ級モデルが最初につまずいた地点を洗い出し、そこから「視覚的関係」「数を数える」「属性」「奥行きと3D」「位置特定」「比較」「細部の識別」「文脈統合」「OCR」「知覚由来のハルシネーション」という10の基礎能力を定義したものです。各設問は答えが短く一意に決まる形式で、難しさが推論や知識ではなく知覚そのものに由来するよう設計され、17,000件超の検証済みプールから3,000問が選ばれています。
評価対象はプロプライエタリ10種とオープンソース6種の計16モデル。公式リポジトリは結果について「どのモデルも正答率60%に達せず、知覚由来のハルシネーションが平均して最も弱い能力である」と記しています(PerceptionBench)。総合首位は GPT-5.6-Sol の59.7%、以下 Kimi K3 が58.5%、Claude-Fable-5 が57.2%、Gemini-3.1-Pro が56.2%と続きます。採点は GPT-oss-120B による自動判定で、300サンプルの人手監査との一致率は99.7%と報告されています。データセットは Hugging Face で公開され、コードは Apache-2.0 ライセンスです。詳細は Kimi の解説ページにまとまっています。
総合スコアで選ぶと商品画像の運用を間違えます
EC の現場にとって重要なのは総合順位ではなく、能力ごとのばらつきです。リポジトリも「総合スコアが近くても能力プロファイルは大きく異なる」と指摘しており、実際に数字を見ると用途ごとに勝者が入れ替わります。
第一に、ハルシネーションが深刻です。総合首位の GPT-5.6-Sol はこの項目だけ26.9%で、Gemini-3.5-Flash の50.6%、Seed-2.1-Pro の49.8%、Claude-Fable-5 の45.0%に大きく劣ります。画像に写っていない要素を自信ありげに描写する挙動が残るということで、商品写真から説明文を自動生成する運用では、素材や付属品を実物と違う形で書いてしまうリスクが直結します。日本では景品表示法の優良誤認にあたる恐れがあり、楽天市場やAmazonの商品ページに無検品で流し込むのは避けるべきです。
第二に、OCR は順位が入れ替わります。ラベルや成分表示、サイズ表記の読み取りに関わる OCR 項目では Seed-2.1-Pro が66.7%、Claude-Fable-5 と Gemini-3.1-Pro が64.3%で並び、総合首位の GPT-5.6-Sol は54.9%にとどまります。総合スコアだけを見てモデルを1本に統一すると、文字読み取りの精度をわざわざ落とすことになりかねません。
第三に、数量と空間の把握はまだ実用に届いていません。数を数える項目の最高は GPT-5.6-Sol の62.4%、奥行きと3D の項目は全モデルが55.5%以下です。セット商品の同梱点数を画像から自動でカウントさせる、画像内のバナー位置を自動検品させるといった用途は、現時点では人の確認を外せません。
明日から見直せる3つの初動アクション
まず、用途ごとにモデルを分けることです。ラベルの文字起こしと商品説明の下書きを同じモデルに任せている場合、前者を OCR 上位のモデルへ切り替えるだけで手戻りが減る可能性があります。API を併用しているなら、処理の種類でルーティングを分ける設計に変えておくのが現実的です。
次に、画像から生成した文章には「写っていないことを書かない」制約を明示し、公開前の人手確認を必ず挟むことです。プロンプトで属性の推測を禁止し、判断できない項目は空欄で返させる運用にすると、後工程での検品が楽になります。特に食品・化粧品・健康関連は薬機法の観点からも、AI 画像認識の出力をそのまま掲載しない体制が必要です。
そして、自社商品の画像で小さな検証セットを作ることです。PerceptionBench は Apache-2.0 で公開されており、設問設計の考え方を自社向けに流用できます。自社の主力商品20枚から30枚に対して、色・素材・個数・表記の4項目を問う設問を用意し、候補モデルに同じ質問を投げて正答率を記録するだけでも、カタログ全体に展開する前の判断材料になります。画像を読ませる前提が崩れる領域が分かれば、素材や寸法、容量といった属性をテキストとして商品ページに明記しておく重要性も見えてきます。関連する論点はGeminiの可視透かし削除と商品画像の扱いやAI画像生成ツールの商品写真活用でも整理しています。
まとめ
AI 画像認識は、総合スコアの見た目ほど成熟していません。16モデルすべてが6割未満で、ハルシネーション・OCR・数量把握のどこが弱いかはモデルごとに大きく異なります。日本のEC事業者がとるべきスタンスは、モデルを一本化せず用途で使い分けること、そして画像由来の生成物に人の検品を残すことです。自社商品での小さな検証を先に回した店舗ほど、次の世代のモデルに乗り換える判断も速くなります。
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引用元: PerceptionBench(Moonshot AI)
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。