AI生成本はAmazonの本のカタログを38.3倍に膨らませ、1冊あたりの売上を押し下げました。
Stony Brook大学・コロンビア大学ロースクール・ミシガン大学の合同チームが、Amazonで販売された自費出版ジャンル小説14,419冊の全文をAI判定にかけ、日次の販売データと突き合わせた研究結果を公開しました。結論は「質ではなく量が市場を作り変えた」というものです。AIで作られた本は平均すると売れていないのに、市場全体の1冊あたり売上を確実に押し下げていました。本記事は、EC支援19年・5,000社超の実績を持ち、AI導入支援は2023年から提供する株式会社オルセル(うるチカラ運営)が、日本のEC事業者の視点で解説します。

AI生成本の実態は「点数20%・売上11.3%」だった
まず数字です。Generative AI floods and dilutes the market for booksは、2023年1月から2026年3月に刊行された自費出版ジャンル小説14,419冊を対象に、全文のうちAIが書いたと判定された割合で3群に分けました。25%超をAIが書いていた本は、点数では全体の20.0%を占めるのに、販売数では12.1%、売上では11.3%しか取っていません。逆にAIテキストが検出されなかった本は、点数62.9%に対して販売数71.7%、売上72.5%を確保しています。
つまり「AI本は売れない」という直感自体は正しいのです。問題はその先にあります。同じ期間に累積の刊行点数は38.3倍に膨れ上がり、四半期に1冊でも売れた本は19.2倍に増えたのに、四半期の販売数は7.3倍、売上は8.9倍にしか伸びませんでした。研究チームはこれを「dilution(希釈)」と呼んでいます。パイの取り分を奪われる前に、パイを分ける人数が倍々で増えていく構図です。
実際、上位のランク枠でも入れ替わりが起きています。ジャンル別のTop25圏に新しく入ってくる本のうち、AIテキスト25%超の本は2023年のほぼゼロから31%まで上昇しました。AI浸透度が最も高いジャンルでは、AIなしの本が握るTop25枠の比率が88%から63%まで落ちています。そして最も示唆的なのは、AI浸透が最も遅かったファンタジー・ホラー系だけは、AIなしの本の1冊あたり売上が35%伸びていたという点です。
日本のEC事業者にとっての3つの論点
第一の論点は、カタログの希釈は本以外でも起きるということです。この研究の舞台はAmazon KDPですが、構造はそのまま楽天市場やAmazon.co.jpの商品カタログに当てはまります。生成AIで商品説明文とバリエーションSKUを量産するのは、いまや数時間の作業です。検索結果の1ページ目や楽天の検索上位という「枠」の数は変わらないので、点数だけが増えれば1商品あたりの露出は必ず薄まります。自社が量産側に回るかどうかにかかわらず、この圧力は全店舗にかかります。
第二の論点は、定額制・共有プールの領域から先に効いてくることです。研究では、Kindle Unlimitedの対象比率が高いジャンルほど、AIなしの本が持っていた優位が縮小していました。売上シェアで8.5ポイント、収益シェアで8.4ポイントの差です。読者が定額の枠内で読む本を選ぶ場合、1冊増えるたびに既存の本の取り分が直接削られるからです。ECに置き換えれば、送料無料ラインやポイント倍率、サブスク的な定期購入枠といった「同じ財布を奪い合う設計」の中で、点数の増加が最も速く効いてきます。
第三の論点は、AIで成功した本ほど既存作品の言い回しを多く含んでいたという発見です。売れているAI本は、既存の本にしか出てこない希少な表現を平均41.6%も含んでおり、AIなしのベストセラー37.2%、文学賞受賞作19.1%を上回りました。売上が10倍になるごとに、この重複率は7.6ポイント上がっていました。商品ページの文章をAIに任せる場合、競合の表現に寄っていく力が働くということです。差別化のために使ったAIが、逆に均質化を進めるリスクがあります。
いま取るべき初動アクション
まず、点数を増やす施策のKPIを「点数」から「1点あたり売上」に置き換えることです。この研究が測ったのも、まさに1冊あたりの売上でした。SKUを増やしたのに全体売上が横ばいなら、それは自社カタログ内での共食いが起きているサインです。
次に、AIで生成した商品説明文をそのまま公開しない運用を決めることです。生成した文章に自社にしかない情報、たとえば実際の使用シーン、同梱物の細かい仕様、開発の経緯といった一次情報を必ず足してから公開する。研究が示した「成功しているAI生成物ほど既存表現に寄る」という傾向は、そのまま「一次情報を足さないと埋没する」という警告として読めます。
最後に、露出が薄まりにくい領域に資源を寄せることです。AI浸透が遅いジャンルだけ1冊あたり売上が伸びていたという結果は、EC文脈では「AIで量産しにくい商材」「レビューや実績が効く商材」「指名検索が立つブランド」の相対価値が上がることを意味します。カタログの奥行きで勝負する時代から、指名で選ばれる設計に振り直す時期に来ています。
まとめ
AI生成本の研究が示したのは、平均品質が低くても、量が十分にあれば市場は作り変わるという事実です。カタログ38.3倍に対して売上8.9倍という数字は、EC事業者にとって他人事ではありません。点数を追う運用から、1点あたりの利益と指名される理由を作る運用へ、KPIの置き換えを急ぐべきタイミングです。
参考文献
- Generative AI floods and dilutes the market for books(arXiv:2607.20349)
- AI-Written Fiction Now Fills a Third of New Amazon Bestsellers, Study Finds
- Majority of books in Amazon’s ‘Success’ self-help genre likely written by AI : Study
※うるチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴社のEC事業に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
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引用元: arXiv:2607.20349 Generative AI floods and dilutes the market for books
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。