AIライブ配信者が人間を代替、中国7万店の現実とEC事業者の3論点

中国で7万店超がAIデジタルヒューマンをライブ配信ホストに採用。コスト10分の1、非ピーク帯の転換率30パーセント改善という数字と、AI表示規制の動きから、日本のEC事業者が今押さえるべき3つの論点を解説します。

投稿日: カテゴリー AIニュース

中国でAIデジタルヒューマンによるライブ配信が、人間の配信者を実務レベルで置き換え始めています。

中国のEC業界で、AIが生成するデジタルヒューマンがライブコマースの配信ホストとして本格的に定着しつつあります。京東(JD.com)は2026年3月25日、自社のAIデジタルヒューマンをライブ配信ホストとして使う出店者が7万店を超えたと明らかにしました。配信コストは人間のホストの10分の1、深夜など非ピーク時間帯の転換率は30パーセント改善したと報告されています。本記事は、EC支援19年・5,000社超の実績を持ち、AI導入支援は2023年から提供する株式会社オルセル(うるチカラ運営)が、日本のEC事業者向けに論点を整理します。

中国で何が起きているのか、数字で見る現在地

結論から書くと、中国のライブコマースではAIホストが「実験」から「標準装備」へ移行しました。理由は、コスト構造が根本から変わったためです。

Yicai Globalによると、中国のライブコマース取引額は2024年に4兆5,000億元(約6,441億ドル)を超え、オンライン販売全体のおよそ3分の1を占めるまでに拡大しました。この巨大な市場のなかで、AIデジタルヒューマンが人間のホストの役割を急速に引き受けています。

具体的な数字を持つ事例が京東です。Stellagentの解説によると、京東は2025年12月にデジタルヒューマン機能を全出店者へ無償開放し、わずか3か月で7万店超が採用しました。2025年のデジタルヒューマン経由の流通総額は数百億元規模とされ、商品推薦の精度は90パーセントを超え、売上は人間ホストの80パーセント以上に達したと報告されています。2025年6月には、著名配信者である羅永浩のデジタルアバターを使った配信が7時間で5,500万元(約765万ドル)を売り上げた事例も確認されています。

一方で、置き換えが進んでいるのはライブ配信の現場だけではありません。Futurismがニューヨーク・タイムズの報道を引用して伝えたところでは、2026年3月だけで約5万本のAI生成マイクロドラマがDouyinに追加され、俳優の仕事が急速に細っています。Global Timesは、消えているのは定型的な演技を繰り返す中位層の仕事であり、上位の演者への需要は残るという業界関係者の見方を紹介しています。技術が代替しているのは「人」ではなく「標準化された作業」だ、という整理です。

中国のライブコマース市場でAIホストが規制対象に加わったことを示す資料画像

日本のEC事業者にとっての3つの論点

日本の事業者がまず押さえるべきは、AIホストの成否が「配信技術」ではなく「自社の商品データの質」で決まるという点です。

第一の論点は、データ整備が競争軸になったことです。京東のデジタルヒューマン部門は、視聴者との対話品質と滞在率にはまだ課題が残ると認めており、出店者側がアフターサービス情報を含む詳細なデータを提供して初めて回答精度が上がると説明しています。つまり、商品仕様・FAQ・返品条件・サイズ感といった情報を構造化して持っている店舗ほど、AI配信の効果が出やすい構造です。これはAI動画生成モデルの低コスト化が進むほど、差がつくポイントになります。

第二の論点は、非稼働時間帯の扱いです。非ピーク時間帯で転換率が30パーセント改善したという報告は、「人がいない時間は売上ゼロで当然」という前提を崩します。日本でもTikTok Shopを軸としたソーシャルコマースの体制づくりが進んでおり、24時間の枠をどう埋めるかは近い将来の実務課題になります。ライブ配信と推薦アルゴリズムの組み合わせで成果を出す事業者も出てきました。

第三の論点は、表示ルールです。中国は2026年1月7日、国家市場監督管理総局とサイバースペース管理局が「ライブコマース監督管理弁法」を公表し、AIデジタルアバターとAI生成動画を初めて規制の枠組みに入れました。AIホストには明確なラベル表示と、AIが生成した存在であることを視聴者に継続的に知らせる義務が課されます。日本でもステルスマーケティング規制や景品表示法の観点から、AI生成であることの明示は先回りして設計しておくのが安全です。

今後の展望と、いま取れる初動

今後は、AIホストの導入可否ではなく導入時期が論点になっていきます。中国では京東に加え、淘宝(タオバオ)やDouyinでも同種の機能が広がっており、この流れが日本のプラットフォームに波及するのは時間の問題と見るのが自然です。

いま日本のEC事業者が取れる初動は、大きく3つあります。ひとつ目は、商品情報とFAQの棚卸しです。AIホストが答えられる範囲は、店舗が持っているテキスト資産の範囲を超えません。ふたつ目は、ライブ配信の前段として短尺の商品動画を内製し、台本と訴求軸の勝ちパターンを先に見つけておくことです。動画生成コストは下がり続けているため、失敗のコストは以前より小さくなっています。みっつ目は、AI利用の表示方針を社内で先に決めておくことです。後から表示ルールが定まったときに、運用を止めずに済みます。

なお、日本のライブコマース市場規模については複数の推計が流通しており、調査主体によって数値の幅が大きいため、本記事では特定の金額を断定しません(要確認)。

まとめ

中国では、AIデジタルヒューマンが7万店規模でライブコマースの現場に入り、コストは10分の1、非ピーク帯の転換率は30パーセント改善という数字が出ています。同時に規制も動き始めました。日本のEC事業者にとっての備えは、配信ツールの選定ではなく、商品データの構造化とAI利用の表示方針を今のうちに整えておくことです。

参考文献

※うるチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴社のEC事業に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://uruchikara.jp/contact/

引用元: Yicai Global


【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)


投稿者: 齋藤竹紘

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。

お問い合わせ