Alibabaが動画生成AI「Wan3.0」のベータ提供を始め、最長30秒の動画を1回で生成できるようになりました。
本記事は、EC支援19年・5,000社超の実績を持ち、AI導入支援は2023年から提供する株式会社オルセル(うるチカラ運営)が解説します。テキストや画像だけでなく、PDFやPowerPointの資料をそのまま入力にして動画を作れる点が今回の目玉です。1080pの30秒クリップで6.00ドルという価格も公表されており、商品動画の内製化を検討している日本のEC事業者にとって、無視できない選択肢が1つ増えました。
Wan3.0で何ができるようになったのか
結論から言えば、Wan3.0の変化は「長さ」「入力の幅」「価格の明示」の3点です。The Decoderが2026年8月24日に報じた内容によると、Wan3.0は1回の生成で最長30秒の動画を出力でき、これは前世代のWan2.5の2倍にあたります。プロンプトの内容から適切な動画尺をモデル側が提案する機能と、既存動画を延長するツールも備えます。
入力の幅も広がりました。テキスト、画像、動画、音声を同時に処理でき、1つのプロンプトに画像を最大10枚、動画5本、音声5クリップまで含められます。さらにWebページやPDF、PowerPointといった資料そのものを入力ソースにできるため、静的な資料を動画へ変換する用途が想定されています。生成AI動画の弱点だった顔やUIの崩れについても、参照素材からキャラクター・小道具・空間レイアウトの一貫性を保つ方向で改善したとAlibabaは説明しています。
価格は解像度と2つのティア(StandardとPrime)で分かれます。Standardでは480pが1秒あたり0.05ドル、720pが0.10ドル、1080pが0.20ドルで、30秒の1080pクリップなら6.00ドルです。高速版のPrimeは1080pが1秒0.28ドルで、30秒なら8.40ドルになります。Standardは記事時点で30パーセント引きが適用中とされています。提供窓口はwan.videoのサイト、Alibaba Cloud Model Studio、およびQwen CloudのAPIの3経路です。
日本のEC事業者にとっての3つの論点
第一に、商品動画の内製コストの目安が明確になったことです。1080pの30秒で6.00ドルは、1ドル150円で換算するとおよそ900円です(為替は変動するため実際の請求額は要確認)。動画制作を外注すると1本あたり数万円から数十万円かかるケースが一般的ですから、単価だけを見れば桁が変わります。ただし実務では、狙った絵が出るまでに何度も生成し直すのが普通です。1本の完成品にたどり着くまで10回生成すれば9,000円相当になる計算で、「1本900円」ではなく「試行回数込みの単価」で見積もる必要があります。この考え方はFlux 3で商品動画を内製した場合のコスト試算でも整理しています。
第二に、資料を入力にできる点が日本の店舗運営と噛み合うことです。楽天市場やAmazon、Yahoo!ショッピングで販売している事業者の多くは、商品説明のスライドやカタログPDF、卸向けの提案資料をすでに持っています。これまではその内容を動画用の絵コンテに書き直す工程が必要でしたが、資料そのものを渡して動画化できるなら、その中間工程が短縮されます。楽天の商品ページ内動画、Amazonの商品動画枠、Shopifyの商品ページ、TikTokやInstagramのリールなど、同じ素材から尺違いを量産する運用が現実的になります。
第三に、表現の適法性チェックが人間側に残るという点です。生成AIが作った映像でも、景品表示法や薬機法の規制は変わりません。実物と質感や色味が異なる映像、効果を過度に想起させる演出は、実写であろうと生成であろうと問題になります。またAmazonや楽天の各プラットフォームには商品動画のガイドラインがあり、生成AI利用の可否や表示義務は今後変わる可能性があるため、運用ルールは各社の最新規約を都度確認する前提で組んでおくのが安全です。
初動として何をすべきか
まず、既存の商品動画の年間本数と外注費を洗い出し、置き換え候補と置き換えない候補を分けることをおすすめします。人物が商品を使うシーンや、質感が購買判断を左右する食品・アパレルは実写を残し、パッケージ紹介やスペック説明のような情報伝達型から生成に寄せるのが失敗しにくい順序です。
次に、既存のスライドやPDFを1本だけ入力して、実際に何回の生成で公開水準に届くかを計測してください。ここで出た試行回数が、そのまま自社の実コスト係数になります。あわせて、生成した動画に対する社内チェック項目(誇大表現、実物との差異、権利処理、字幕の誤り)を先にチェックリスト化しておくと、量産フェーズで詰まりません。
なお今回の発表は、Alibabaが大規模なAI投資に踏み込んでいる文脈の中にあります。同社は香港上場企業として最大規模の株式売出しを発表しており、直近四半期の利益はAI投資の増加を主因に前年同期比75パーセント減とReutersが報じています。中国系モデルの価格競争がこの水準で続くのか、それとも投資回収局面で値上げに転じるのかは、内製の前提が崩れるリスクとして見ておく価値があります。動画生成市場全体の動きはAI動画市場の回復に関する記事もあわせてご覧ください。
まとめ
Wan3.0で押さえるべきは、最長30秒への倍増、資料そのものを入力にできること、1080p30秒で6.00ドルという価格の3点です。日本のEC事業者にとっては、商品動画の一部を内製に振り替える現実的な選択肢が増えた一方で、試行回数込みの実コストと、景表法・薬機法および各モールの規約チェックは引き続き人間側の仕事として残ります。まずは手持ちの資料1本で試行回数を測ることから始めるのが堅実です。
参考文献
- The Decoder: Alibaba’s Wan3.0 generates AI videos up to 30 seconds long from text, images, and documents
- Alibaba Cloud Model Studio: Wan3.0 video
- Reuters: Alibaba beats quarterly revenue estimates
※うるチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴社のEC事業に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://uruchikara.jp/contact/
引用元: The Decoder
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。