欧州委員会はChatGPTをDSA上の巨大検索エンジンに指定しました。
2026年8月31日、欧州委員会がChatGPTをデジタルサービス法(DSA)上の「超大規模オンライン検索エンジン(VLOSE)」に指定しました。AIチャットボットがこの区分で指定された初のケースです。根拠となったのはOpenAI自身の開示値で、EU域内のChatGPT検索の月間平均利用者は約1億5,910万人。指定基準の4,500万人を3倍以上上回りました。本記事は、EC支援19年・5,000社超の実績を持ち、AI導入支援は2023年から提供する株式会社オルセル(うるチカラ運営)が、日本のEC事業者への影響という観点から解説します。

何が起きたか|ChatGPTが「検索エンジン」として法的に扱われた
今回の決定の核心は、ChatGPTが法律上の「検索エンジン」として位置づけられた点にあります。欧州委員会は公式発表で、ChatGPTをVLOSEに、RedditとRobloxを超大規模オンラインプラットフォーム(VLOP)に指定したと明らかにしました。委員会はChatGPTを、ユーザーの質問に対してウェブを検索しながら回答するハイブリッド型のサービスであり、オンライン検索エンジンの定義に該当すると整理しています。
数字の裏付けも明確です。Search Engine Journalによると、OpenAIのDSA開示ではChatGPT検索のEU域内における月間平均利用者数は2026年3月31日までの6か月間で約1億5,910万人でした。同時に指定されたRedditは最大5,720万人、Robloxは約4,660万人と開示しており、ChatGPTの規模が突出しています。
指定された3サービスは通知から4か月、つまり2027年1月までにVLOP・VLOSE向けの追加義務を満たす必要があります。具体的には、サービスとアルゴリズムに起因するシステミックリスクの評価と低減、年1回以上の第三者監査とその指摘への対応、欧州委員会や各国当局へのデータ提供、審査を通過した研究者へのデータ開放です。加えて、レコメンド機能を持つサービスはプロファイリングに基づかない表示オプションの提供が、広告を表示するサービスは広告アーカイブの公開が求められます。違反すれば全世界年間売上高の最大6パーセントの制裁金が科される可能性があります。
欧州委員会のヘンナ・ビルックネン上級副委員長は、今回の指定について「これらのサービスはEU域内でより高い水準の監視と説明責任を負うことになる」と述べています。ただし指定自体は違反認定ではなく、執行手続きは別枠である点は誤読しやすいので注意が必要です。
日本のEC事業者にとっての3つの論点
日本のEC事業者にとっての最大の意味は、生成AIの回答枠が「検索チャネル」として制度上も認められ始めたことにあります。DSAはEU域内向けのルールであり、日本国内の店舗運営に直接の義務が生じるわけではありません。それでも、次の3点は判断に影響します。
第一に、AI検索を集客チャネルとして正式に計上する根拠が強まりました。うるチカラでは、Shopifyが公表したAI検索経由の流入3倍や、DTC4社のGEO運用を取り上げてきました。今回の指定は、これらの動きが一過性のブームではなく、規制当局が検索インフラとして扱う対象になったことを示しています。GA4の参照元にChatGPTやPerplexityが混ざり始めている店舗は、これを「その他」に埋もれさせず独立したチャネルとして分けて計測すべき段階です。
第二に、広告アーカイブの義務化は、ChatGPT広告の透明性を高める可能性があります。OpenAIの広告事業は年換算10億ドルのランレートに到達したと報じられたばかりです。EU域内で公開広告リポジトリが整えば、どの業種のどんなクリエイティブが出稿されているかを外部から観察できるようになります。日本での適用時期や範囲は現時点で不明であり要確認ですが、競合の出稿状況を読み解く材料が増える方向であることは押さえておきたい点です。
第三に、プロファイリングに依存しない表示オプションの提供義務は、AI回答のパーソナライズが一律ではなくなることを意味します。ユーザーの履歴に基づく最適化が弱まるほど、回答の根拠として引かれる情報源そのものの質が結果を左右します。ChatGPT検索がsite:演算子を大規模に使い始めた件からもわかるとおり、自社ドメイン内に一次情報が整理されているかどうかが、引用されるかどうかの分かれ目になります。
規制がAI検索に及ぶ流れは今回が初めてではありません。ドイツではGoogleのAI OverviewsとPerplexityがメディア法の対象と判断された事例もあり、欧州は一貫してAIの回答面を既存の情報流通ルールの枠内に取り込もうとしています。
今後の展望と初動アクション
今後半年で注目すべきは、2027年1月の期限に向けてOpenAIが提出する最初のシステミックリスク報告の中身です。ここでAI回答の情報源選定やランキングの考え方が一部でも開示されれば、GEO(生成エンジン最適化)の議論は推測ベースから資料ベースに移ります。欧州委員会はこれまでのDSA執行で合計8億7,000万ユーロの制裁金を科しており、7月にはAliExpressに5億5,000万ユーロの制裁金を課しました。チャットボットに同じ物差しをどう当てるかが、次の1年の焦点になります。
日本のEC事業者が今週から着手できることは3つあります。まず、GA4やRMSのアクセス解析で生成AI経由の参照元を切り出し、直近3か月の推移を数字で把握することです。次に、価格・在庫・仕様・返品条件といった一次情報を自社ドメイン内のテキストとして整備し、画像内の文字だけで済ませないことです。最後に、EU向けに越境販売している場合は、表示や広告に関する要件が今後どう波及するかを取引先や物流事業者と共有し、2027年1月以降の運用を確認しておくことです。いずれも大掛かりな投資は不要で、着手が早いほど有利になる作業です。
まとめ
ChatGPTのVLOSE指定は、生成AIの回答枠が制度上も検索インフラとして扱われ始めた節目です。EU域内の月間1億5,910万人という規模が、その現実を裏づけています。日本のEC事業者にとっての実務的な意味は規制対応そのものではなく、AI検索を独立した集客チャネルとして計測し、一次情報を自社ドメインに整えることの優先度が上がったという一点に集約されます。
参考文献
- Commission designates ChatGPT, Reddit, Roblox under Digital Services Act(欧州委員会)
- 欧州委員会プレスリリース IP/26/1772
- ChatGPT Is Now A “Very Large Online Search Engine” In The EU(Search Engine Journal)
- EU Digital Services Act (DSA)(OpenAI ヘルプセンター)
- DSA: Very large online platforms and search engines(欧州委員会)
※うるチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴社のEC事業に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://uruchikara.jp/contact/
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。