米国では2026年9月下旬、小売大手がAIによる価格設定をめぐって相次いで釈明に追われました。
本記事は、EC支援19年・5,000社超の実績を持ち、AI導入支援は2023年から提供する株式会社オルセル(うるチカラ運営)が解説します。AI価格設定とは、需要や顧客データをAIが分析し、価格を自動で提案・変更する仕組みのことです。Modern Retailは2026年10月5日、この仕組みが米国で厳しい視線にさらされていると報じました。楽天市場やAmazonで価格改定ツールを使っている事業者にとっても、他人事ではない動きです。
何が起きたか:Reutersの報道とWalmartの誓約
発端は、Reutersが9月29日に公開した McDonald’s の価格設定に関する調査報道です。Modern Retailによると、この報道は8月に撮影されたスクリーンショットと9人の情報源の証言をもとに、フランチャイズオーナーに対して「顧客の支払い意思」といった要素に基づく価格提案が示されていたと指摘しました。
これに対し McDonald’s は、同社サイトの説明ページで、価格推奨ツールは加盟店ごとの提案を示すだけで、価格を設定したり変更したりするものではなく、価格と推奨を使うかどうかは加盟店が決めると説明しています。
一方の Walmart は、9月25日付でCEOのJohn Furnerが書簡を公開しました。書簡では3つの約束が示されています。第一に、顧客が誰か、あるいは時間帯によって異なる価格をつけないこと。第二に、AIアシスタントのSparkyに共有されたデータを使って価格を引き上げたり、よりお得な選択肢を隠したりしないこと。第三に、データの収集や保護について透明性を保つことです。書簡には「We price the product, not the person」という一節があり、Modern Retailもこの姿勢を伝えています。
規制の動きと業界の見方:なぜ逆風になっているのか
規制面でも動きが出ています。Modern Retailによると、Maryland州は食料品店でのダイナミックプライシングを禁止する法律を成立させました。州の小売業団体の会長は、これは業界の一般的な慣行ではないとコメントしています。また、米連邦取引委員会(FTC)は2026年8月、個人化価格設定に関する執行方針案を公表し、個人データの分析に基づく価格設定に対する国民の懸念が高まっていると指摘しました。
価格最適化システムを手がけるKapnovaのCEO、James Sunは、航空券やホテルのように特定のイベント周辺で価格が動くことには消費者が慣れていると述べています。ただし小売業者がより精密に、より頻繁に価格を変えるようになると、友人のほうが安く買えたと知った消費者がそのブランドから離れる可能性があるとし、ブランドは価格認識への影響を真剣に考えるべきだと警告しました。
つまり論点は、AIが価格を決めること自体よりも、個人ごとに価格が違うのではないかという消費者の疑念にあります。技術の精度が上がるほど、納得感の説明が経営課題になるということです。
日本のEC事業者にとっての意味
日本では、米国のように個人別の価格設定を直接規制する州法が成立したという情報は、本記事の執筆時点では確認できていません(要確認)。ただし、消費者庁が所管する景品表示法は、商品やサービスの価格などを偽って表示することを規制しており、価格の見せ方には元々厳しい目が向けられています。
楽天市場、Amazon、Yahoo!ショッピングでは、競合価格に連動して自動で価格を調整する外部ツールを使う店舗が増えています。今回の米国の動きから読み取れるのは、価格を変えること自体より、変え方を顧客に説明できるかどうかが信頼を左右するという点です。
今後の展望と初動アクション
今後、AI価格設定をめぐる規制や自主ルールは、米国を起点に広がる可能性があります。日本の事業者が今できる備えとして、次の点を確認しておくことをおすすめします。
まず、自社で使っている価格改定ツールが、どのデータをもとに価格を動かしているかを把握してください。次に、顧客の属性や閲覧履歴で価格を変えていないかを点検します。そして、価格変更のルール、たとえば競合最安値への連動や在庫量に応じた調整などを、社内で文章にして残しておきます。問い合わせがあったときに、この説明が信頼を守る材料になります。
まとめ
Walmartは個人別の価格設定をしないと明言し、McDonald’sはツールはあくまで提案だと説明しました。AI価格設定は便利な一方、顧客の納得感を損なえばブランドの信頼を傷つけます。日本のEC事業者も、価格を動かす仕組みを説明できる状態にしておくことが、これからの基本姿勢になります。
参考文献
- Modern Retail: Pricing tactics come under scrutiny in the age of AI
- Walmart: Letter from our CEO
- McDonald’s: How McDonald’s sets prices
- 消費者庁: 景品表示法
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引用元: Modern Retail
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。