Stitch FixがAIと顧客の声を使い、PBを10ブランドに絞って強化しています。
Stitch Fixのプライベートブランド(PB)開発とは、顧客の声とAIで「足りない商品」を見つけ、社内で企画・デザインする仕組みのことです。 Modern Retailによると、米国のパーソナルスタイリングEC「Stitch Fix」は、PBを16ブランドから10ブランドへ整理し、2026年にはAIで作ったデザイン案に対して顧客から1,400万件超の評価を集めました。女性向けの売れ筋上位3ブランドはすべてPBです。本記事は、EC支援19年・5,000社超の実績を持ち、AI導入支援は2023年から提供する株式会社オルセル(うるチカラ運営)が、日本のEC事業者が自社のオリジナル商品づくりに生かせる点を解説します。
何が起きたか:PBを10ブランドに絞り、AIで企画を速めた
結論から言うと、Stitch Fixは「ブランドの数を減らし、1ブランドあたりの品ぞろえを広げる」方向にPB戦略を切り替えました。2025年度に16あったPBを10に統合し、その中でバッグ、靴、アクセサリー、ベルト、防寒小物、サングラスなど服以外の商品を増やしています。PB統括のバイス・プレジデントであるAmy Sullivanは、通勤着専用のような単一用途のブランドをやめ、顧客の生活シーンに合わせてブランドを組み直したと説明しています。
商品企画の流れは4段階です。まず顧客から寄せられた声をもとに、PBやナショナルブランドで埋められていない「空白」を探します。次に、パリ・ニューヨーク・ロンドンの売り場で撮った写真をAIで分析し、どのPBの世界観に合うかで流行を仕分けます。3つ目に、商品企画の担当者がAIにプロンプトで指示して最初のデザインを起こし、人の手で仕上げます。たとえば「チクチクしない糸でストレッチの効いたセーター」のような指示です。最後に、顧客向けの機能「Style Shuffle」で、AIが作ったデザイン案に顧客が評価を付けます。2026年は約2,800枚の画像に1,400万件超の評価が集まり、次のコレクションに反映されました。
成果が見えやすいのは、2026年8月に41 Hawthornが出した教員向けカプセルコレクションです。教員として働く顧客から寄せられた5,000件超のメモを分析したところ、57%が動きやすさ、肌の隠れ具合、伸縮性、ポケットといった実用面を求め、35%が着回ししやすいセットを求めていました。全品を家庭で洗える仕様にした結果、多くの商品がこの秋の売れ筋に入ったといいます。
業績面では、2026年度第4四半期の決算発表によると、アクティブ顧客数は227.7万人と前年比1.4%減でしたが、顧客1人あたり売上は592ドルと前年比7.8%増えました。顧客数が伸び悩むなかで、PBが1人あたりの購入額を押し上げる役割を担っていると読めます。
日本のEC事業者にとっての論点:顧客の声はすでに手元にある
日本のEC事業者が押さえるべき点は、Stitch Fixのやり方の多くが、特別なデータ基盤がなくても再現できることです。同社の出発点は「顧客が何に困っているか」という言葉のデータでした。日本の店舗でいえば、楽天市場やAmazonの商品レビュー、問い合わせ履歴、購入後アンケートの自由記述が同じ役割を果たします。これまでは担当者が読み切れずに埋もれていた数千件の声も、生成AIなら数分で「不満」「要望」「利用シーン」に分類できます。
2つ目の論点は、ブランドや商品シリーズの数を増やしすぎないことです。オリジナル商品を持つ中小のEC事業者では、思いつきでシリーズを足した結果、在庫と商品ページ管理の手間だけが増えている例が少なくありません。Stitch Fixが16から10へ絞ったうえで売上を伸ばしている点は、「数より、1つのブランドで生活シーンを広くカバーする」方が運営効率も認知も上がるという示唆になります。
3つ目は、職業や生活シーンで顧客を切る発想です。教員向けカプセルは、性別や年代ではなく「床に座る時間が長い」「保護者の前では整って見せたい」という具体的な悩みから生まれました。日本でも、保育士、看護師、介護職、店舗スタッフなど、仕事着の悩みがはっきりした層は多くいます。レビューの中で「ポケット」「動きやすい」「洗える」といった語がどの職業の人から多く出ているかを見るだけでも、新商品の切り口が見つかります。
なお、Modern Retailは他社の動きとして、米JCPenneyでPBが売上の半分超を占めることや、2025年のGartner調査で77%が「ストアブランドはナショナルブランドと同等以上になりうる」と答えたことも紹介しています。PBを伸ばす流れは小売全体で強まっています。
初動アクション:小さく始める4つの手順
1つ目は、過去1年分のレビューと問い合わせを書き出し、ChatGPT、Claude、Geminiのいずれかで分類することです。氏名や住所、注文番号などの個人情報は事前に消してから読み込ませてください。「既存商品への不満」と「まだ扱っていない商品への要望」を分けて出力させると、改善とPB開発の両方の材料になります。
2つ目は、画像生成AIでデザイン案を複数作り、既存顧客に選んでもらうことです。Stitch Fixのように数千万件を集める必要はありません。自社ECの購入者やSNSのフォロワーに3〜5案を見せて投票してもらうだけでも、発注前に外れ案を落とせます。楽天市場の店舗では、楽天R-Mail本文に外部のアンケートページへのリンクを置くことは規約上できないため、楽天外の調査は自社ECやSNSの場で行ってください。
3つ目は、生成されたデザインを必ず人が仕上げることです。Stitch Fixも、AIの出力はあくまで出発点として扱い、素材や着心地は担当者が詰めています。既存ブランドの意匠に似ていないかの確認も、人が行う工程として残しておくべきです。
4つ目は、自社のブランドやシリーズを棚卸しし、売上の小さいものを統合できないか検討することです。統合で浮いた商品ページの運用時間を、売れ筋シリーズの品ぞろえ拡大に回すのがStitch Fix型の考え方です。
まとめ
Stitch Fixは、顧客の声の分析、流行写真のAI仕分け、AIによるデザイン案、顧客評価の4段階でPB開発を速め、ブランド数を16から10に絞りながら売れ筋上位をPBで占めています。日本のEC事業者も、手元のレビューと問い合わせをAIで読み解くところから、小さくオリジナル商品づくりを始められます。
参考文献
- Modern Retail「How Stitch Fix is using AI and customer feedback to build its private brands」
- Stitch Fix 2026年度第4四半期決算発表(SEC Form 8-K Exhibit 99.1)
- Stitch Fix 2026年度年次報告書(SEC Form 10-K)
- Stitch Fix 2026年度第4四半期決算説明会トランスクリプト
※うるチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴社のEC事業に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
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引用元: Modern Retail
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。