AI学習データ企業が売上18倍|EC事業者の自社データ3つの論点

AI学習データ企業スノーケルAIが年換算売上18倍、企業価値35億ドルへ。日本のEC事業者が持つ商品データや問い合わせログの価値と、今週から取れる3つの初動アクションを解説します。

投稿日: カテゴリー AIニュース

AI学習データを作る企業スノーケルAIが、年換算売上を1年で18倍に伸ばしました。

米TechCrunchが2026年9月22日に報じた内容によると、AI学習データを開発するスノーケルAIが3億5,000万ドルのシリーズEを調達し、企業価値は35億ドルに達しました。17カ月前の13億ドルから約2.7倍です。注目すべきは調達額よりも売上の伸び方で、年換算売上は3億7,500万ドル、直近12カ月で18倍になっています。AI学習データという「素材」に、モデルそのものに匹敵する値段がつき始めたということです。本記事は、EC支援19年・5,000社超の実績を持ち、AI導入支援は2023年から提供する株式会社オルセル(うるチカラ運営)が解説します。

AI学習データ開発を手がけるスノーケルAIのサービスイメージ

AI学習データ市場で何が起きたか

結論から書くと、AI開発の希少資源が「計算資源」から「専門家の判断が入ったデータ」へ移りつつあります。今回の調達はインサイト・パートナーズとS32が主導し、既存株主のアディション、ライトスピード、グレイロック、GV、ウェルズ・ファーゴも参加しました。

スノーケルAIはもともと、データのラベル付け(AIに学習させるため、データへ正解の目印をつける作業)を自動化するソフトウェアを提供していました。それを昨年、完成したデータセットそのものを納品する「データ・アズ・ア・サービス」へ転換しています。同社のデータ開発事業は、ソフトウェアとモデルで合成データを生成しつつ、その領域の専門家が内容を作り込むハイブリッド型です。

伸びているのは同社だけではありません。TechCrunchによれば、メルコーの年換算総売上は20億ドル、ハンドシェイクは10億ドル、マイクロワンは5億ドルに達しています。ただしこれらの企業は売上の6〜7割を作業にあたる専門家へ支払うため、純売上は見出しの数字よりかなり小さい点は押さえておく必要があります。

日本のEC事業者にとっての3つの論点

第一に、汎用的なウェブデータはすでに枯渇しつつあり、価値が出るのは「どこにも落ちていないデータ」だという点です。楽天市場やAmazon、Shopifyで店舗を運営していれば、商品マスタ、レビュー、問い合わせ応対ログ、返品理由のフリーテキストといった、外部からは取得できないデータが毎日積み上がっています。これはAI各社が数百億円を投じて集めようとしているものと、性質としては同じ種類の資産です。

第二に、値段がついているのは生データではなく「専門家の判断」だという点です。スノーケルAIが評価環境やベンチマークまで作り込んでいるのは、正解そのものより、なぜそれが正解かという判断基準が欠けているからです。EC運営でいえば、この問い合わせにはこう返す、この商品はこの季節にこの言い方で訴求する、というベテランの判断こそが価値になります。裏を返すと、その判断が担当者の頭の中にしかない店舗は、AIに引き継ぐ資産をまだ持っていないことになります。人手によるレビュー工程の重要性は、ChatGPTの人間レビュー体制でも触れたとおりです。

第三に、権利と規約の確認が先に必要だという点です。メタが提供者にデータ対価を払い始めた動きは以前の記事でも取り上げましたが、モールから取得したデータの二次利用可否はプラットフォームごとに規約が異なります。自社データだと思っていたものが、実際にはモール側の規約に縛られている場合があるため、外部提供や外販を検討する前に必ず確認が必要です。

専門家が関与するカスタムデータ開発の流れ

今週から取れる初動アクション

まず着手すべきは、社内データの定期エクスポートを習慣化することです。楽天RMS、Amazonセラーセントラル、Shopify管理画面から、受注データ、レビュー、問い合わせ履歴を月次で書き出して保管します。プラットフォーム側の保存期間は無期限ではないため、放置すれば消えます。

次に、問い合わせ応対ログを「質問、回答、そう回答した理由」の3点セットで残す運用に変えます。理由が残っていないログは、AIに学習させても判断を再現できません。同じ発想で、返品やキャンセルの理由も選択肢だけでなくフリーテキストを残しておくと、商品改善とAI活用の両方に効きます。

三つ目に、社内のベテラン担当者の判断基準を、20項目程度の短いルールとして文書化します。学習用データの蓄積という点では、大規模データセット構築の動きと発想は同じで、量よりも一貫した基準が効きます。この文書がそのまま、社内向け生成AIの指示文の土台になります。

まとめ

AI学習データを扱う企業が1年で売上18倍という事実は、専門知識が入ったデータに市場価格がついたことを意味します。日本のEC事業者にとっての示唆は明快で、毎日の運営で生まれている問い合わせログや判断基準を、消える前に構造化して残すことです。外販を狙う必要はありません。まずは自社のAI活用で使える形に整えるところから始めるのが現実的です。

参考文献

※うるチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴社のEC事業に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://uruchikara.jp/contact/

引用元: TechCrunch


【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)


投稿者: 齋藤竹紘

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。

お問い合わせ