クリエイターの役割が、広告塔から商品開発に関わる戦略パートナーへ移りました。
米リテール専門メディアのModern Retailは2026年9月18日、ファッションとビューティー業界でクリエイターの役割がこの10年で大きく変わったと報じました。今月ニューヨークで開かれたGlossy Pop NYCにブランド幹部とクリエイターが集まり、飽和した市場で誰が選ばれ続けるのかが議論されています。そこで浮かび上がった答えは、フォロワー数ではなく実務の経験値が通貨になったということでした。クリエイターマーケティングを外注の広告枠として扱ってきた事業者にとっては、前提が変わる話です。本記事は、EC支援19年・5,000社超の実績を持ち、AI導入支援は2023年から提供する株式会社オルセル(うるチカラ運営)が、日本のEC事業者向けに解説します。
クリエイターは広告塔から商品開発の当事者へ
結論から言えば、成熟したクリエイターほどブランドとの関係が「投稿を請け負う」段階を抜けています。理由は、長く発信を続けたクリエイターが自分の見せ方とファンの反応を誰よりも知っており、ブランド側がその知見を製品や企画の上流で使いたがっているからです。
2019年にヘアケアのチュートリアルから活動を始めたAbby Baffoeは、その後ライフスタイル全般へと内容を広げました。ニッチに絞るやり方は人によっては有効だが自分には窮屈だった、と本人は語っています。それでも初期から付き合いのあるTRESemméやL’Orealとの関係は続いており、日々の発信に無理なく収まっているためだと説明しています。ここで注目すべきは、発信テーマが変わってもブランドとの関係が切れていない点です。
競技者の参入も進んでいます。WNBAのHailey Van Lithは、アスリートは歴史的に広告板のように扱われてきたと振り返り、自分は商品やマーケティング戦略の段階からブランドと組みたいと述べました。撮影をどう見せるかを決める過程そのものに関わりたい、というのが本人の言葉です。
一方で、すべての案件が自由なわけではありません。InstagramとTikTokで合計2,500万人を超えるフォロワーを持つTessa Brooksは、非ラグジュアリーブランドの案件では拡散を狙った内容を作る一方、ハイファッションのブランドは自社の世界観に対して非常に厳密で、指定されたガイドラインに沿う必要があると語っています。オーセンティシティを求める声と、厳格な原稿確認が同居しているのが現在地です。
「インフルエンサー」という肩書きが効かなくなった理由
いま効いているのは肩書きではなく、検証可能な実務経験です。理由は、発信の道具と場所が誰にでも開かれたことで、肩書きそのものが情報として何も語らなくなったからです。
ファッションPRのベテランであるKelly Cutroneは、インフルエンサーやマイクロインフルエンサーという語はもはや自分にとって意味を持たないと切り捨てました。今はAmazonでマイクを買い、見栄えのする背景を用意すれば誰でも意見を言える、というのが理由です。そのうえでCutroneは「意見と経験には違いがあります」と述べ、プラットフォームの民主化が専門家や批評家の定義を曖昧にしていると指摘しました。
その対極にある例が、メイクアップアーティストとして数十年のキャリアを積んだMary Phillipsです。自身のブランドM.ph by Mary Phillipsを立ち上げる際、まだ製品が1つもない段階でSephoraに構想を持ち込んだところ、その場で取り扱いたいと返ってきたといいます。売れる根拠として提示できたのが、フォロワー数ではなく技術と経歴だったという事実は、日本の事業者にとっても示唆的です。
日本のEC事業者が押さえるべき3つの論点
日本の中小EC事業者にとっての現実解は、外部インフルエンサーの単発起用より先に、社内の専門性を発信可能な形に整えることです。理由は、価格でも物量でも勝てない規模の店舗が持つ唯一の資産が、商品と顧客に関する現場の知識だからです。
第一に、スタッフをクリエイター化する発想です。バイヤー、カスタマーサポート、製造担当といった社内の人間は、Cutroneの言う「経験」を実際に持っています。商品の選定理由、返品が多かったサイズ、問い合わせの多い使い方といった話は、外部のクリエイターには作れません。顔出しが難しければ手元だけの動画でも成立します。
第二に、モールごとに導線の制約が違う点を設計に織り込むことです。楽天市場は、商品ページや楽天R-Mailから自社サイトやSNSなど楽天市場の外へ誘導することが規約上できません。したがって楽天市場向けには、SNSから楽天の商品ページへ流す一方向の設計にし、店舗側ではスーパーDEALやお買い物マラソンなどモール内施策との連動でCVRを取りに行くのが現実的です。Amazonも商品ページからの外部誘導は不可で、発信側はAmazonインフルエンサープログラムなどAmazonの枠組みを使う形になります。Shopifyなどの自社ECは外部誘導の制約がないため、クリエイター起用の投資対効果を最も測りやすい場所になります。
第三に、生成AIの普及がこの流れを加速させるという読みです。AIで量産されたレビュー風の文章や商品紹介動画が増えるほど、実際に触った人間の具体的な失敗談や使い分けの説明が相対的に希少になります。うるチカラとしては、AIを使って撮影台本や商品説明の初稿を短時間で作り、浮いた時間を現場の人間が語る部分に回す配分が、中小事業者には最も費用対効果が高いと考えています。AIに代替させるべきは作業であって、経験そのものではありません。
まとめ
クリエイターマーケティングの評価軸は、リーチから経験の証明へ移りつつあります。日本のEC事業者が取るべきスタンスは、フォロワー数の大きい外部クリエイターを探すことより先に、自社の中にある専門性を発信可能な形に切り出すことです。そのうえで楽天市場とAmazonでは外部誘導の制約を前提に導線を組み、自社ECで効果測定を行うのが、投資を無駄にしない順番だと考えます。
参考文献
- Modern Retail: How the role of creators has evolved in the fashion and beauty industries
- Glossy: Glossy Pop NYC 2026
- Modern Retail: Fashion and beauty brands are expanding their partnerships with female college athletes
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引用元: Modern Retail
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。