広告費ゼロから350万ドルへ転換|EC集客・上位ファネルの3論点

米DTCのSpot & Tangoが認知広告に350万ドルを投下。前年は実質ゼロ。EC集客で上位ファネルへ配分を移す3つの論点と、日本のEC事業者がとるべき初動アクションを解説します。

投稿日: カテゴリー AIニュース

米DTCブランドのSpot & Tangoが、認知獲得の広告に年350万ドルを投じました。

Modern Retailが2026年9月23日に報じたところによると、米国のペットフードDTCブランドSpot & Tangoは、前年まで実質ゼロだった上位ファネル(認知獲得)の広告費に、今年350万ドルを投下しました。ニューヨークの地下鉄570車両超へのポスター掲出から、屋外看板、コネクテッドTVまで一気に広げています。年商2億ドルペース、前年比70%超成長という好調のなかで、あえて計測しづらい認知投資へ舵を切った判断です。本記事は、EC支援19年・5,000社超の実績を持ち、AI導入支援は2023年から提供する株式会社オルセル(うるチカラ運営)が、日本のEC事業者にとっての論点として整理します。

上位ファネル350万ドル、来年は500〜700万ドルへ

Spot & Tangoが今年始めたのは、購入直前の刈り取りではなく、ブランドそのものを知らせる広告です。クリエイティブは代理店Day Jobと制作した「Extend your dog’s life」というメッセージで、極端に胴の長い犬のイラストに「More nutrition. More dog.」の一文を添え、ニューヨーク市の地下鉄570車両超に展開しました。あわせてウエストサイド・ハイウェイ沿いの屋外看板、リニアTVとコネクテッドTVのスポットも試しており、共同創業者のRussell Breuerによればバスケットボール中継の枠が特に効いたということです。

同社は2018年創業、サブスクリプションを主軸とするDTCで、常温保存できるドライフード「Unkibble」で知られます。ペンシルベニア州に自社工場を持ち、すでに黒字で、前年比70%超の成長と年商2億ドル換算のランレートに達しています。昨年立ち上げた自社デンタルチューブランドPupGumは、7か月で年間経常収益1,000万ドルを超えました。米国とカナダで販売し、Purinaやブルーバッファローといったレガシー大手とシェアを争う立場です。

注目したいのは、この規模でも従来はMeta、Google、TikTokといった下位ファネル一本槍だったという点です。共同創業者のDylan Munroは自社の出自を「パフォーマンスマーケティングのDNA」と表現し、その限界についてこう述べています。「パフォーマンスマーケティングが連れて行ってくれる距離には、限りがあります」(Modern Retail)。上位ファネルに寄せてから、ポートフォリオ全体で「数十万人」の新規顧客を獲得したとしており、来年は500万〜700万ドルまで積み増す計画です。

日本のEC事業者にとっての3つの論点

論点は3つに整理できます。第一に、下位ファネル一本足の構造は、いずれCAC(顧客獲得単価)の上昇に飲まれるということです。楽天市場のRPP広告、Amazonのスポンサープロダクト広告、Meta広告はいずれも同じ枠を他社と競り合う仕組みで、認知が薄いままでは「最後のクリック」の単価だけが上がり続けます。AI検索の普及でデジタル獲得が崩れ、実店舗に回帰するブランドが出ている流れ(AI検索で獲得が崩れる、実店舗回帰の3論点)とも、根っこは同じ問題です。

第二に、計測できない投資をどう意思決定するかです。Spot & Tangoは既存顧客と潜在顧客にアンケートを実施し、購入者のうち屋外広告やTVで知ったと答える人が増えたことを確認しています。Munroは、最後のクリックがFacebook広告やGoogle広告であっても、最初の認知は上位ファネルで作られていたと見ています。日本の中小EC事業者がこれを真似るなら、専用の調査を発注する必要はありません。注文フォームの「当店をどこで知りましたか」という任意項目、同梱チラシのアンケート、レビュー依頼メールへの1問追加で、流入の質の変化は十分に追えます。

第三に、認知への配分は世界的な潮流だという点です。ガートナーのシニアディレクターアナリストGreg Carlucciは、2026年のCMO支出調査でマーケティング予算のうちブランド認知への配分が30.5%となり、前年から1.5ポイント上がったと述べています。同社の別の発表でも、認知とコンバージョンが総メディア支出の62.6%を占め、2024年から10%増えた一方、ロイヤルティと継続への支出は29%減って15%未満になったと報告されています。日本でも、リテールメディアの枠が各社から出そろい配分の設計余地が広がっています(リテールメディア11社の広告配分3論点)。

ただし日本で実行する際は、モールごとの規約差に注意が必要です。楽天市場は店舗から楽天市場外へ誘導する導線を認めていないため、楽天R-Mailの本文や商品ページに自社サイトやSNSのURLを置く設計は取れません。楽天での認知施策は、楽天スーパーDEALやお買い物マラソンの露出、市場内の回遊設計といった楽天内で完結する打ち手に限定し、屋外広告やコネクテッドTVのような楽天外の認知は自社ECやAmazonの受け皿とセットで考えるのが安全です。

初動アクションと今後の展望

初動としてやるべきことは4つです。まず、注文時と同梱物に「どこで知ったか」の設問を入れ、認知経路の分布を毎月見る土台を作ります。次に、認知枠の予算上限を月商の3〜5%程度に切り、TVerやABEMAのようなコネクテッドTV、YouTube、地方局スポットなど1媒体だけを1四半期回して学習します。Carlucciが指摘するように、かつてリニアTVには高い最低出稿額の壁がありましたが、コネクテッドTVの普及でその前提は変わりました。中小規模でも上位ファネルに参加できる条件は整っています。

三つめは評価指標の切り替えです。認知施策をROASだけで評価すると必ず負けます。ブランド名の指名検索数、楽天やAmazonのモール内検索でのブランド名流入、自社ECの直接流入とその滞在時間を並べて、前年同月と比較する設計に変えてください。四つめは、イベントやPRを使う場合の受注体制です。PupGumが開催した「口が最も臭い犬」コンテストは、開催日にサイト訪問者が前週比34%増え、Gothamist、NBC、Viceに取り上げられました。この種の瞬間的な流入は、在庫と出荷キャパシティが先に整っていなければ機会損失と低評価レビューに変わります。

Spot & Tangoは2028年の創業10周年に向けて自社ブランドを増やす方針で、認知投資も来年さらに積み増します。日本のEC事業者にとっての示唆は、広告費の総額ではなく配分の形です。刈り取りだけに寄せた構造は、競合が増えるほど単価で削られます。

まとめ

Spot & Tangoは、年商2億ドルペースに達した段階で、実質ゼロだった認知広告に350万ドルを投じ、来年は500万〜700万ドルへ増やします。下位ファネル一本足はいずれCACの上昇で行き止まりになるという判断です。日本のEC事業者も、まず「どこで知ったか」を計測する仕組みを整え、月商の数%から認知枠を試し、モール規約の範囲内で受け皿を設計するところから始めるのが現実的です。

参考文献

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引用元: Modern Retail


【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)


投稿者: 齋藤竹紘

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。

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