Spotify は2026年9月23日、レコメンドの中身をユーザー自身が編集できる「Taste Profile」を米国で公開しました。
これまで推薦アルゴリズムは、事業者側が握る「開けてはいけない箱」でした。その箱の鍵を、Spotify はユーザー本人に手渡します。しかも編集手段は設定スイッチではなく、自然言語の会話です。レコメンド精度そのものを競ってきた EC事業者にとって、これは「精度の勝負」から「納得感の勝負」へと軸が動く合図に見えます。本記事は、EC支援19年・5,000社超の実績を持ち、AI導入支援は2023年から提供する株式会社オルセル(うるチカラ運営)が、Taste Profile の事実関係と日本の EC事業者がとるべき初動を整理して解説します。

Taste Profileとは何か、米国公開で何が変わったのか
Taste Profile とは、Spotify のAIが自分の嗜好をどう理解しているかを本人が閲覧し、直接書き換えられる機能のことです。TechCrunch によると、Spotify は2026年9月23日から米国の Premium 会員(18歳以上)に向けて提供を開始しました。
この機能は2026年3月、テキサス州オースティンで開かれた SXSW のステージで、共同CEOのグスタフ・セーデルストロームが発表したものです。当初のベータ提供はニュージーランドのリスナーに限られていました。約半年を経て、売上・トラフィックともに最大の市場である米国へ広げた形になります。
操作は驚くほど素朴です。モバイルアプリでプロフィール画像をタップし、下へスクロールして Taste Profile を選ぶと、音楽・ポッドキャスト・オーディオブックを横断した「自分の嗜好の説明文」が表示されます。「Tell us more」の欄に、もっと多様性がほしい、この系統は減らしてほしい、といった要望を自然文で書いて送信すると、数時間後にホーム画面の提案内容が入れ替わります。
重要なのは、この Taste Profile が末端の一機能ではなく、Discover Weekly や Made for You、年末の Wrapped といった主要な推薦面を支える理解そのものだという点です。Spotify 公式の発表は「80%超のリスナーがパーソナライゼーションを最も気に入っている点として挙げている」と述べています。看板機能の心臓部を、ユーザーの手が届く場所まで下ろしてきたことになります。
なお、この機能は現時点でもベータ扱いです。米国以外への拡大時期について、同社は明確なスケジュールを示していません。
日本のEC事業者にとっての3つの論点
結論から言えば、日本の EC事業者が向き合うべき論点は、レコメンド精度の改善ではなく「嗜好データを誰が編集できるか」という設計思想の方にあります。
第一に、レコメンドの誤爆コストが可視化されます。Spotify が挙げた例は、就寝時の環境音や、親のアカウントで子どもが車内で流した曲が嗜好として蓄積されてしまうケースです。EC でも構造はまったく同じで、一度きりのギフト購入や家族の代理購入が推薦枠を占拠し続ける現象は、楽天市場でも Amazon でも Shopify の自社ECでも起きています。これまで事業者はこれを「仕方のないノイズ」として処理してきましたが、ユーザー側が訂正手段を持つ体験を知ってしまえば、訂正できない推薦は不親切だと受け取られます。
第二に、ゼロパーティデータの取得手段として優れている点です。ゼロパーティデータとは、顧客が自分の意思で明示的に提供した嗜好や意向のデータのことです。Taste Profile の「Tell us more」は、体裁としてはフィードバック欄ですが、実質は本人申告の嗜好データを継続的に集める仕組みになっています。サードパーティ Cookie に依存しにくくなった現在、行動ログの推定に頼らず本人から直接聞く導線は、そのまま精度とコンプライアンスの両方に効きます。
第三に、実装のハードルが以前より明確に下がっています。生成AIで自然文を構造化データに変換する処理は、すでに一般的なAPI利用で成立します。自社ECであれば、マイページに「今ほしいもの・いま不要なもの」を自由記述で入力してもらい、その内容をタグや除外条件に変換してレコメンド枠と接客メールへ反映する構成は、大がかりな基盤刷新なしに組めます。うるチカラでもAIレコメンドの実装や、Netflixが推薦ロジックを言語モデルに置き換える検証を取り上げてきましたが、今回の Spotify の一手は「言語モデルで推薦を作る」段階から「言語で推薦を直せる」段階へ進んだという意味で、一段先の事例です。

一方で、楽天市場や Amazon のようなモール内では、推薦ロジックそのものをモール側が握っているため、出店者が直接手を入れられる範囲は限られます。出店者側で現実的に効くのは、商品ページの属性情報を精緻にそろえ、検索とレコメンドの双方から正しく拾われる状態を維持することです。
明日から取れる初動アクション
最初にやるべきは、既存顧客の推薦精度がどれだけ外れているかを実測することです。定期的に購入している顧客に対して、メールやマイページで推薦している商品のクリック率と購入転換率を直近3カ月ぶんだけ切り出せば、ノイズの規模はおおむね見えます。ここが極端に低ければ、ギフト購入や単発購入が嗜好として誤って蓄積している可能性が高くなります。
次に、自由記述で嗜好を受け取る窓口を1つだけ作ります。専用機能を新設する必要はなく、購入完了後のアンケートやマイページの一項目でかまいません。「次に提案してほしいもの」「もう提案してほしくないもの」の2問だけでも、推薦除外リストの精度は変わります。収集した自由記述を生成AIでカテゴリ・ブランド・価格帯・利用シーンのタグに変換し、レコメンド枠の除外条件に落とし込む流れまで作れば、運用として回り始めます。
三つめに、ギフト購入のフラグ設計を見直します。ラッピング指定や配送先が注文者と異なる注文を「自分用ではない可能性が高い購入」として扱い、推薦の学習対象から外すだけでも、誤爆の主要因はかなり減らせます。既存の受注データだけで判定できるため、追加のデータ収集は不要です。
最後に、Taste Profile が米国でどう受け止められるかは継続して見ておく価値があります。ベータ段階であり拡大時期も未定のため、日本での提供可否は現時点では要確認です。ただし、ユーザーがアルゴリズムを編集できる体験が当たり前になれば、その期待値は音楽配信の外にも広がります。Spotifyが AI生成のアーティストプロフィールを表示対象から外した対応と合わせて見ると、同社が「推薦の中身を説明する」方向に一貫して舵を切っているのが分かります。
まとめ
Spotify の Taste Profile は、AIによる推薦の理解をユーザー本人に開示し、自然言語で書き換えさせる仕組みです。EC事業者にとっての本質は機能の目新しさではなく、推薦の誤りを顧客自身が直せない状態が減点になり始めるという点にあります。まずは推薦のクリック率を実測し、自由記述で嗜好を受け取る窓口を1つ作るところから着手するのが現実的です。
参考文献
- TechCrunch・Spotify’s is giving you the keys to its recommendation algorithm with US launch of ‘Taste Profile’
- Spotify Newsroom・A New Era of Personalization: Shape Your Taste Profile on Spotify
- TechCrunch・Spotify will let you edit your Taste Profile to control your recommendations
- Spotify Newsroom・Spotify Gives You Even More Control With the Ability to Exclude Tracks From Your Taste Profile
※うるチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴社のEC事業に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://uruchikara.jp/contact/
引用元: TechCrunch
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。