AIエージェントが、利用者の代わりに店舗へ電話をかけ始めました。
2026年9月17日、テキスト型AIアシスタントのInstinctとMetaのMuseが、ほぼ同日に「AIが電話をかける」機能を追加しました。ネット予約に対応していない飲食店の席を押さえる、歯科のキャンセル待ちに並ぶ、契約トラブルを事業者に問い合わせる。これまで人間がやっていた電話の用事を、AIエージェントが肩代わりします。日本のEC事業者にとって重要なのは「自社が電話をかける側」ではなく「AIから電話を受ける側」に回るという反転です。本記事は、EC支援19年・5,000社超の実績を持ち、AI導入支援は2023年から提供する株式会社オルセル(うるチカラ運営)が解説します。
AIエージェントの電話代行機能とは何が起きたか
AIエージェントの電話代行とは、利用者が文章で依頼した用件を、AIが実際に電話回線を使って相手先へ伝え、結果を持ち帰る機能のことです。TechCrunchによると、サンフランシスコ拠点のInstinctは「Instinct Concierge」を一部ユーザー向けの早期アクセスとして提供開始し、順次全ユーザーへ広げる計画です。創業者のNoah Shinnは、ネット予約を受け付けないレストランの予約、歯科医院のキャンセル待ち登録、ケーブルテレビの請求トラブル対応などを用途として挙げています。
MetaのMuseも同じ9月16日、米国の事業者への発信通話機能をベータ提供しました。特徴的なのは公開の仕方で、「Museに電話機能について尋ねたユーザー」から優先的に開放するという方式をとっています。機能要望の収集と段階的リリースを兼ねた設計です。
規模感も無視できません。Museは9月8日の公開から5日間で米国内73万件のダウンロードを記録し、Meta AIアプリの70.7万件を上回ったとSensor Towerが報告しています。一時はアプリランキングで米国2位まで上昇しました。Instinctは8月に3.5億ドルを評価額25億ドルで調達し、さらに評価額100億ドルで10億ドルを調達する交渉に入っていると報じられています。この領域には、WajoやTown、Ollieといった競合も並んでいます。
日本のEC事業者にとっての3つの論点
日本のEC事業者が最初に考えるべきは、電話の受け手としての備えです。論点は3つに整理できます。
第一に、カスタマーサポートの電話に「人間ではない発信者」が混ざり始めます。現時点で発表されているのは米国内の事業者への発信ですが、この種の機能は日本語対応と国内展開が数か月単位で追いかけてくるのが通例です。電話口で本人確認をどう行うか、AIが代理でかけてきた場合に本人の同意をどう確認するかは、規約と運用手順の両方で決めておく必要があります。うるチカラでは以前、AI疲れを背景に有人電話サポートが見直されている動きを取り上げましたが、有人窓口を残す判断と、AI発信を受ける準備は別々の論点として扱うべきです。
第二に、定期購入(サブスクリプション)の解約導線です。Instinctが用途として明示しているのは請求トラブルの解決であり、解約や契約変更の電話代行はこの延長線上にあります。日本では特定商取引法の改正により定期購入の解約条件の明示が厳格化されており、電話が繋がりにくい解約導線は行政・消費者双方から問題視されてきました。AIが粘り強く何度でもかけ直せるようになると、「電話が繋がりにくいことで実質的に解約を止めている」運用は、成立しないだけでなくリスクに変わります。
第三に、電話が新しい流入チャネルとして再評価される可能性です。ネット予約に非対応の店舗をAIが電話で押さえるという用途は、裏を返せば「Web上に在庫や予約枠の情報がない事業者ほど、AIが電話をかけてくる」という構造です。カタログや在庫、納期の情報を構造化してWebに出しておけば電話は減り、出していなければ電話が増えます。すでにGPT Live 1のAPI公開で電話業務の自動化が現実的になっている以上、受け側もAIで受けるという構図が数か月で一般化してもおかしくありません。
今後の展望と、いま取るべき初動
初動として現実的なのは、次の3点です。
まず、入電ログの棚卸しです。直近3か月の電話問い合わせを「在庫・納期」「注文変更」「解約・返品」「その他」に分類し、上位2カテゴリをFAQとサイト上の構造化情報に落とし込みます。AIエージェントは公開情報で解決できる用件は電話をかけてきません。電話を減らす最短距離は情報公開です。
次に、応対スクリプトの前提を見直します。「発信者がAIの可能性がある」場合に本人確認をどう取るか、注文情報の開示範囲をどこまでにするかを決め、オペレーターの判断に委ねない形で明文化しておきます。とくに個人情報と決済情報の開示は、AI代理の場合の扱いを先に決めておかないと現場が止まります。
最後に、定期購入を扱っている事業者は解約導線を自己点検してください。電話のみの解約受付を残している場合、Webフォームやマイページでの解約を並行して用意するのが、法令面でもブランド面でも安全です。
なお、Instinctは先週から利用者のアシスタントに専用メールアドレスを付与し、アカウント登録や管理を代行させる機能も追加しています。さらに、信頼済みネットワークに登録した相手のアシスタント同士が直接やり取りする仕組みも動き始めました。電話とメール、そしてエージェント間通信という3つの経路で、人間を介さない接触が増えていく流れです。日本国内での提供時期や日本語対応の有無は現時点で公表されておらず、要確認です。
まとめ
AIエージェントの電話代行は、EC事業者を「かける側」ではなく「受ける側」に立たせます。カスタマーサポートの本人確認ルール、定期購入の解約導線、そしてWeb上の情報公開の3点を、日本語対応が来る前に整えておくことが、いちばん費用対効果の高い備えになります。電話を減らしたいなら、AIが電話をかけずに済むだけの情報を自社サイトに置くことです。
参考文献
- TechCrunch・Rival AI agents, Instinct and Meta’s Muse, both add the ability to make calls
- TechCrunch・Meta debuts its Muse AI agent. Will consumers trust it?
- TechCrunch・Meta’s AI agent Muse is now the No. 2 app in the US
- TechCrunch・Viral AI startup Instinct has raised $350 million at a $2.5 billion valuation
※うるチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴社のEC事業に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://uruchikara.jp/contact/
引用元: TechCrunch
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。