モデルの推論過程を盗み出す「蒸留キャンペーン」とは、他社AIの出力や推論を大量に取得し、自社モデルの学習に流用する行為のことです。OpenAIは2026年10月1日までに、この手口で動いていた15,000以上の関連アカウントを検出して止めたと明らかにしました。ところが同じ手口がMicrosoft Azure上のエンドポイントでは通用していたと報じられています。
本記事は、EC支援19年・5,000社超の実績を持ち、AI導入支援は2023年から提供する株式会社オルセル(うるチカラ運営)が解説します。
何が起きたか:7月に始まり、7月28日に遮断された組織的な抽出
The Decoderによると、このキャンペーンは2026年7月1日に始まりました。7月24日から25日にかけてリクエストが急増し、16,000件、4,000ユーザー以上に達したとされています。OpenAIは7月28日に完全に遮断しました。OpenAIの公式ブログでは、不正アカウントの停止、サインアップの強化、暗号化された推論の再利用禁止、出力のスクリーニングといった対応が示されています。
手口は大きく二つ報告されています。一つは暗号化された推論をコピーして別のセッションで復号する方法、もう一つは仮想のメモパッド機能を使って推論を引き出す方法です。The Decoderは、この背後にMoonshot AI(Kimiモデルの開発企業)が関わるとの指摘を伝えています。ただし、この関与の根拠や当事者の反応については一次資料での確認が取れておらず、要確認です。
なぜ重要か:同じモデルでも、提供経路で守りの強さが変わる
今回のいちばん大きな論点は、攻撃そのものより経路ごとの防御の差です。研究者らが9月13日に再テストしたところ、OpenAI自身のAPIでは攻撃が防がれた一方、Azure上のエンドポイントではGPT-6 Astraを含むあらゆるOpenAIモデルに対して手口が機能したと報告されています。OpenAIがAzure側にセーフガードを加えたのは9月27日で、Anthropicも9月28日に自社側の対策を追加しました。
同じモデルでも、どのプラットフォームから呼び出すかによって保護の水準が異なる。これは、複数のクラウドや仲介サービスを通じてAIを使う企業にとって見過ごせない構造です。
研究の詳細はarXivの論文と、研究者が公開した更新報告書で確認できます。業界団体のFrontier Model Forumの名前も記事内で挙がっており、業界横断の対策が議論の対象になりつつあります。
今後の動き:注目したい3つのポイント
第一に、クラウド事業者とモデル開発企業の間で、セーフガードの水準をどう揃えるかです。今回は修正までに数カ月の時間差が生じました。第二に、推論の暗号化という設計自体が、再利用を前提とした攻撃にどこまで耐えられるかです。第三に、蒸留を巡る各社の取り締まりが、今後も続くかどうかです。9月にはAnthropicも蒸留キャンペーンの詳細を公表しており、各社が足並みをそろえつつあります。
日本企業の側でも、社内でAIを使う際に直接APIを使うのか、クラウド経由なのかで、提供元の保護がそのまま適用されるとは限らない点は意識しておきたいところです。契約や利用規約のうえで、どの水準の保護が及ぶかは、各社の公式情報での確認が必要です。
まとめ
OpenAIは15,000以上の関連アカウントを止めて推論窃取の組織的な動きを遮断しましたが、Azure経由では同じ手口が通用していたと報じられました。モデルの性能だけでなく、提供経路ごとの防御の差も、AI選定の判断材料になる局面が来ています。
参考文献
- The Decoder: OpenAI says it stopped a campaign to steal its models’ reasoning
- OpenAI: Disrupting a coordinated model distillation campaign
- arXiv: 研究論文 2608.09867
- 研究者による更新報告書
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引用元: The Decoder
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。