マリオットは、客室の家具をそのまま買えるECを始め、注文額を4倍にしました。
米ホテル大手のマリオットが、客室で使っている家具や照明、リネンをそのまま販売するECを本格化させています。Modern Retailが2026年8月3日に報じたところによると、この「Design Shop」経由の売上は、サイト平均に対して注文額で4倍、購入点数で2倍を記録しています。宿泊という体験そのものを試用の場に変えた設計で、日本のEC事業者にとっても、自社商品をどこで触ってもらうかを考え直す材料になります。本記事は、EC支援19年・5,000社超の実績を持ち、AI導入支援は2023年から提供する株式会社オルセル(うるチカラ運営)が解説します。
客室は24時間試せる売場だったという発見
マリオットがこの事業を伸ばせている理由は、客室が小売店よりもはるかに長く商品を試せる場所だからです。Retail Brewの取材で、同社のチーフカスタマーオフィサーであるペギー・ローは、近所の百貨店に24時間住み続ける人はいないが、客室では実際に触って使ってもらえると語っています。小売の現場では滞在時間が長いほど購入確率が上がるとされますが、宿泊施設はその滞在時間を最初から抱えているわけです。
Design Shopは2026年5月に発表され、既存のBonvoy BoutiquesのEC部門として75点以上でスタートしました。改装したWニューヨーク・ユニオンスクエアから起こした「W Hotels Living」、カンヌやニースの物件から着想した「French Riviera Collection」など、特定の建物や旅先に紐づくコレクションが並びます。価格は壁付け照明が210ドル、ベッド足元のベンチが2,890ドル、ウェスティンのオーク材ナイトテーブルが1,500ドルと、従来のアメニティ通販の域を明確に超えました。
売り方も客室起点です。館内テレビにQRコード付きの広告を流し、客室にポストカードを置き、請求書にURLを載せ、会員向けメールで告知し、ポイントでの購入にも対応しています。マリオットの調査では旅行者の約85%が予定外の購入をしており、そのうち約55%が物販関連だといいます。ウェスティンの「ヘブンリーベッド」を1999年から電話で売り始め、2024年までに50万台以上を出してきた蓄積の上に、いまの設計が乗っている形です。
日本のEC事業者にとっての論点は滞在時間と持ち帰り導線
日本の事業者が受け取るべき論点は、ホテル業の話ではなく、自社が顧客の滞在時間をどこで持っているかという問いです。Design Shopは2026年秋、2025年10月に高輪ゲートウェイシティで開業したJWマリオット・ホテル東京から着想したラインを投入する予定で、日本の風景がそのまま商品カタログになります。

市場の裏付けもあります。観光庁の旅行・観光消費動向調査2025年年間値(確報)によると、日本国内の旅行消費額は37.6兆円で、前年の34.3兆円から9.6%増えました(トラベルボイスの集計)。内訳は日本人の国内宿泊旅行が21.7兆円、訪日外国人旅行が9.5兆円です。日本人の宿泊旅行1回あたりの単価は7万2412円で、これだけの金額を払った人が、数時間から数十時間ひとつの空間にとどまっています。
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日本にも近い実装はあります。帝国ホテルはオンラインモールANoTHER IMPERIAL HOTELで日本各地の商品を扱い、宿泊体験の延長線上に自社ECを置いています。楽天市場やAmazonに出店している事業者でも、宿泊施設・サウナ・美容室・整体院・自動車ディーラーのように顧客が長く滞在する場所を持つ取引先と組めば、同じ構図をつくれます。うるチカラでは卸売マーケットプレイスFaireがホテルやオフィスに販路を開放した件や、ショールームをコンテンツ拠点に変えたNunaの事例も取り上げてきました。
明日から検証できる3つの初動
第一に、自社商品が長時間触れられている場所を洗い出すことです。BtoB卸で納品している宿泊施設や店舗、サンプルを置いているサロン、レンタル利用されている現場など、すでに接点がある場所から探すほうが速く進みます。体験型店舗を検証しているベストバイの取り組みのように、まず1拠点で試すのが現実的です。
第二に、その場で買わせるのではなく、持ち帰らせる導線をつくることです。マリオットはQRコード、ポストカード、請求書のURLを併用し、滞在中と帰宅後の両方を取りにいっています。ただし楽天市場の店舗は、R-Mailや商品ページに楽天市場外のURLを置くと規約違反になります。楽天の場合は同梱物から店舗内の関連ページやレビュー投稿へ誘導し、自社サイトやShopifyの場合は購入後のサンクスページから体験予約へ、と分けて設計してください。
第三に、会員制度と物販をつなぐことです。マリオットはポイントでDesign Shopの商品を買えるようにしており、外食プログラムに参加した会員は宿泊の売上を14%多く生んでいるといいます。ポイントや会員ランクを、宿泊や来店といった本業の予約とEC購入の両方で貯まる設計にすると、片方の接点がもう片方を押し上げます。Kantarのバリー・トーマスは、ホテルは泊まる場所から一緒に暮らすブランドへ変わりつつあると述べています(Modern Retail)。なお、日本の中小EC事業者が同じ手順で同等の成果を得られるかは公開情報からは確認できないため、この点は要確認としておきます。
まとめ
マリオットの数字が示しているのは、商品ページの改善ではなく、商品に触れる時間をどこでつくるかという設計の勝負です。注文額4倍という結果は、客室という24時間の試用環境と、QRコード・ポストカード・請求書・会員メールという複数の持ち帰り導線が重なって出ています。AIで空いた時間をどこに配るかという論点とも地続きで、自動化で浮いた工数を、顧客が商品と出会う場所づくりに振り向けられるかが分かれ目になります。まずは自社が長い滞在時間を持てる接点を1つ選び、そこからECへ戻る導線を1本引くところから始めてみてください。
参考文献
- Modern Retail・Why Marriott is turning hotel rooms into showrooms
- Retail Brew・Why Marriott is adding home decor and furniture to its retail offerings
- Marriott Bonvoy Boutiques・Design Shop
- 観光庁・インバウンド消費動向調査/旅行・観光消費動向調査
- トラベルボイス・2025年の国内旅行消費額は37.6兆円、インバウンドは9.5兆円
- PR TIMES・JWマリオット・ホテル東京 2025年10月2日開業
※うるチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴社のEC事業に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://uruchikara.jp/contact/
引用元: Modern Retail
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。