フィッシング報告の42.7%はEC系|AI犯罪の産業化と3つの防御

INTERPOLはアフリカで報告されたサイバー犯罪の55%にAIが関与すると公表しました。日本ではフィッシング報告の42.7%がEC系です。不正注文となりすましに備える3つの防御を、公的統計をもとに解説します。

投稿日: カテゴリー AIニュース

INTERPOLがアフリカで報告されたサイバー犯罪の55%にAI関与と公表。

INTERPOLは2026年8月3日、アフリカで報告されたサイバー犯罪の55%にAIが関与しているとする地域脅威評価を公表しました。ほぼ同じ時期、日本ではフィッシング報告の分野別内訳でEC系が42.7%を占めています。統計としては別物ですが、本記事の見立てでは、両者に共通しているのは攻撃を仕掛ける側の準備コストが下がったという一点です。本記事は、EC支援19年・5,000社超の実績を持ち、AI導入支援は2023年から提供する株式会社オルセル(うるチカラ運営)が、日本のEC事業者が今週から着手できる防御を3つに絞って解説します。

INTERPOLの調査による、AI技術が関与したサイバー犯罪をどの程度の頻度で観測したかの回答割合を、アフリカの地域別に示したグラフ

AI犯罪の産業化とは、攻撃の全工程が自動化されたことです

今回の報告書が示したのは、個々の攻撃が高度になったという話ではなく、犯罪の生産ラインができたという構造の変化です。INTERPOLのAfrican Cyberthreat Assessment Report 2026は、アフリカの加盟36カ国から集めた調査データをもとにした40ページの文書で、サイバー犯罪が孤立した事件から産業化された国境なきエコシステムへ移行したと結論づけています。AIが関与したサイバー犯罪をどの程度観測しているかを尋ねた設問では、「時々ある」が47%、「頻繁にある」が8%でした。裏を返せば観測できていない国も残っており、把握する側の体制そのものに差があることがうかがえます。

被害額の伸びが分かりやすい指標です。アフリカにおける報告ベースのサイバー犯罪関連損失は、2024年の1億9,200万ドルから2025年には4億8,400万ドルへと2倍以上に増えました。INTERPOLはこの増加の主因を、AIを使った詐欺、認証情報の窃取、自動化されたソーシャルエンジニアリングだと説明しています。サイバー犯罪部門を率いるNeal Jettonは「AIは、偵察やフィッシングから恐喝や検知回避まで、サイバー攻撃のあらゆる段階を自動化しています」と述べています。

EC事業者として見逃せないのが、認証情報を盗むだけの段階から、存在しない人物そのものを作る段階へ進んだという指摘です。報告書によれば、実在する個人情報と捏造した要素を組み合わせたAI生成の人物像は、高度な生体認証さえ突破しうるとされ、銀行口座の開設やモバイルローンの契約、偽名でのSIM登録に使われています。ビジネスメール詐欺の巧妙化も明記されており、アフリカを拠点とする攻撃者が複数の国にまたがるインフラを使って欧州や北米の被害者を狙う構図が報告されています。デジタル性的脅迫も引き続き広がっており、INTERPOLの協力先の一つであるTrendAIだけで、2025年のアフリカで約60万件が検知されました。その多くはPhorpiexというボットネットによる大量メール送信で、私的な画像の公開をちらつかせて暗号資産の支払いを迫る手口です。INTERPOLは、こうした脅迫がAI生成のディープフェイクや合成メディアによって行われることも多いとしています。なお、この報告書はアフリカを対象とした地域評価であり、日本の被害実態を直接示すものではありません。手口の構造が国境をまたぐ、という部分だけを読み取るのが正確な受け取り方です。

日本のEC事業者に直接ぶつかる数字は、フィッシングの内訳です

日本側で今すぐ見るべき数字は、フィッシング対策協議会が公開している月次報告です。2026年6月の報告件数は72,370件で前月から53,691件減りましたが、分野別では報告件数全体に対してEC系が約42.7%、クレジット・信販系が約27.4%を占めており、前月と比べてEC系の件数と割合はむしろ増加しています。全体が大きく減るなかで、EC系だけは件数も割合も増えているという構図です。

かたられたブランドの内訳も示唆的です。Amazonをかたるフィッシングが報告全体の約24.0%、VISAが約11.8%、Appleが約11.6%で、三井住友カードとドコモを加えた上位5ブランドで全体の約55.0%に達しました。また協議会が設置した調査用メールアドレスに届いたフィッシングメールでは、送信元IPアドレスの国別で米国が約75.3%、シンガポールが約10.8%を占めており、正規のクラウドサービスが踏み台にされる傾向が続いています。攻撃者がどこにいるかと、メールがどこから届くかは一致しません。

金額の面では、日本クレジット協会が2026年3月に公表した集計で、2025年通年のクレジットカード不正利用被害額は510.5億円、うち番号盗用被害額が475.4億円でした。単純計算すると被害の約93%が番号盗用です。カードそのものを偽造するのではなく、番号を盗んで使う手口が主流であり、その入り口がフィッシングであるという流れが数字に表れています。

制度面の後押しもあります。IPAの情報セキュリティ10大脅威2026では、組織向けの3位に「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が初選出され、10位のビジネスメール詐欺は2018年の初選出から9年連続9回目のランクインとなりました。攻撃側のAI活用は、もはや海外の話ではなく国内の脅威リストに載っています。守り側の内部統制については、AI侵害の92%が基本的なアクセス制御を欠いていたという調査も併せて確認しておくと、攻守の両面が揃います。

フィッシング対策協議会が公表した、2025年7月から2026年6月までの月別フィッシング報告件数の推移グラフ

今週から着手できる防御は3つに絞れます

第一に、自社ドメインのメール認証を強めることです。フィッシング対策協議会は、DMARCのポリシーがnone(認証に失敗したメールも素通しする設定)のままのドメイン名がなりすましに使われ続けていると指摘し、事業者に対してreject(認証失敗メールを受信拒否する設定)への変更計画を立てるよう月次報告で呼びかけています。設定の考え方は協議会のなりすまし送信メール対策の解説が参考になります。これは自店の顧客が偽メールを掴まされる確率を下げるだけでなく、正規メールの到達率を守る施策でもあります。なお楽天市場だけで運営していて自社ドメインのメールを配信していない場合、この項目は該当しません。楽天R-Mailは楽天市場内で完結する仕組みで、本文に自社サイトやSNSなど楽天市場外のURLを置くことは店舗運営規約で認められていない点も、あわせて押さえておいてください。

第二に、不正注文の見方を「情報が実在するか」から「組み合わせが自然か」へ切り替えることです。合成された人物像は実在の個人情報を土台にしているため、氏名や住所が実在するかどうかの単項目チェックでは弾けません。配送先と請求先の乖離、初回注文での高額かつ大量購入、同一端末からの複数アカウント作成、転送業者の住所指定といった、要素の組み合わせで見る運用に寄せてください。決済側の対策としては、クレジット取引セキュリティ対策協議会がまとめる「クレジットカード・セキュリティガイドライン」により、2025年4月以降は原則すべてのEC加盟店にEMV 3-Dセキュアの導入が求められています。未導入であれば、決済代行会社に設定状況を確認するのが先決です。

第三に、入金先の変更連絡はメールの外で確かめることです。ビジネスメール詐欺は、取引先や自社の役員になりすまして偽の口座へ送金させる手口で、IPAが対策の特設ページを設けているほど定着しています。AIが自然な日本語の商談メールを量産できる以上、文面の違和感で見抜く前提は成り立ちません。振込先変更の連絡を受けたら、そのメールに返信するのではなく、以前から控えている電話番号にかけ直して確認する。この一手順を仕入れ担当と経理で共有するだけで、被害の大半は止まります。関連する手口としては、AIによるスピアフィッシングとメール防御や、ディープフェイクを使ったなりすまし通話の検知AIを使った大規模詐欺オペレーションの実態も参考になります。

まとめ

アフリカを対象としたINTERPOLの報告書は、AIが攻撃の偵察から恐喝までを自動化し、サイバー犯罪を産業化させたことを示しました。日本ではフィッシング報告の42.7%がEC系で、被害額の約93%は番号盗用です。EC事業者が今週着手すべきは、DMARCをrejectへ寄せること、不正注文を要素の組み合わせで判定すること、入金先変更をメールの外で確認することの3点です。いずれも新しいツールの購入を伴わず、設定と手順の見直しで進められます。

参考文献

※うるチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴社のEC事業に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://uruchikara.jp/contact/

引用元: The Decoder


【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)


投稿者: 齋藤竹紘

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。

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