AI導入が止まる真因は社内データ|接続24.5%とEC3つの論点

AI導入が止まる原因は社内データの断片化にあります。June AIの2,000万ドル調達と、総務省白書が示す社内データ接続24.5%という日本の現在地から、EC事業者が先に潰すべき3つの論点を具体的に解説します。

投稿日: カテゴリー AIニュース

AI導入が止まる原因は、モデルではなく社内データの断片化だと指摘されました。

米国のスタートアップ June AI が2026年8月3日、2,000万ドルの資金調達とともにステルス状態を解除しました。狙っているのは「AIを入れたのに動かない」という、多くの企業が抱えたまま表に出しにくい状態です。同社が原因として名指ししたのは、モデルの性能ではなく、企業側に積み上がった旧システムと断片化したデータでした。そして総務省の調査を重ねると、この話は日本のEC事業者にとってまったく他人事ではありません。本記事は、EC支援19年・5,000社超の実績を持ち、AI導入支援は2023年から提供する株式会社オルセル(うるチカラ運営)が解説します。

令和8年版情報通信白書の要点として個人の生成AI利用経験率58.8%と組織的な取組なし27.0%を並べた解説記事の画像

AI導入の壁は「同じ意味の項目が10個ある」状態でした

AI導入が失敗する場所は、モデル選定ではなく既存システムとの接続部分だと同社は指摘します。TechCrunch が報じたところによると、June AI のCEOである Efrat Rapoport は、エージェントのひな型を作るのは簡単な部分で、難しいのはその下にある混乱の上で動かすことだと語り、具体例として「同じことを指すデータベース項目が10個重複していて、チームによって使っているものが違う状態で、エージェントはどう動けばいいのか」と述べています。

同社の公式発表によれば、調達額は2,000万ドルのプレシードで、リードはマーク・ベニオフが率いる TIME Ventures です。マイケル・デル、ボックスのアーロン・レビー、クラウドストライクのジョージ・カーツ、ヴイエムウェア共同創業者のダイアン・グリーンらが参加しました。創業チームは2019年に Salesforce に買収された Bonobo AI の4人で、その後5年間 Salesforce 内部でAI製品に関わっていました。

興味深いのは、AIが普及するほど人手による導入支援の需要が増えているという指摘です。発表文には「奇妙なことに、AIは専門サービスの需要を減らすのではなく増やした」というRapoportの一文が置かれています。発表文は、OpenAI の Deployment Company や AWS Professional Services を挙げ、AIを現場で動かすための組織や部門が各社で強化されていると位置づけています。企業に入り込んでAIを稼働させる専門職はフォワードデプロイドエンジニア(FDE)と呼ばれ、人材の争奪戦になっています。

TechCrunch が紹介した事例も示唆的です。米国の住宅ローン大手CMGで戦略責任者(CSO)を務める Paul Akinmade は、社内のソフトウェア開発を Claude Code へ素早く移行できた一方、Salesforce との連携でつまずき、アーキテクトやFDEに相談しても数週間進まなかったと語っています。開発そのものは速くなっても、既存システムに触れた瞬間に止まるという構図です。

日本のEC事業者が直視すべき数字は「社内データ接続24.5%」です

日本企業は生成AIを使い始めた段階までは追いつき、社内データとつなぐ段階で止まっています。総務省が2026年7月24日に公表した令和8年版情報通信白書によると、何らかの業務で生成AIを利用している日本企業は86.4%で、前年の55.2%から大きく伸び、米国90.9%との差は4.5ポイントまで縮まりました。

ところが、生成AIに社内データを学習させたり、生成AIが参照できるデータベースを構築したりしている企業は日本で24.5%にとどまります。中国73.0%、米国57.2%、ドイツ54.4%はいずれも5割を超えており、白書を詳報したinnovaTopiaはこの差を「個人が使うところまでは来た。組織のデータとつなぐところまでは来ていない」と整理しています。業務変革について「組織的な取組はない」と答えた割合も日本27.0%に対して米国1.4%で、中小企業に限ると45.6%に達します。

令和8年版情報通信白書の概要より、個人における生成AIサービスの利用経験率と利用頻度(日米独中)

個人の利用経験率が58.8%まで伸びた一方で、組織のデータにつなぐ作業は前述のとおり足踏みしている、というのが白書が示した日本の現在地です。白書はこの状態から抜け出す道筋を3段階で描いています。第1段階が汎用AIによる個人作業の効率化、第2段階が一部プロセスへのAI組み込み、第3段階が社内データの整備と業務システム連携を含む全体最適です。そのうえで白書は、汎用AIツールを導入しても一部の積極的な社員が使うだけで、全社的な活用と効果創出に至らない可能性があると指摘しています。日本で効果実感が最も高い用途が「議事録・メール作成補助」の72.3%であるのに対し、米国では同じ項目が42.6%で「研究・商品開発」が47.5%と高く出るのも、この段差を裏づけています。

EC事業者の現場に置き換えると、June AI が指摘した「同じ意味の項目が重複している」状態はそのまま当てはまります。楽天市場の商品管理番号、Amazonのセラー用SKU、Shopifyのバリアント品番、基幹システムの自社品番。同じ1商品に対して番号が4種類あり、名寄せの規則が担当者の頭の中にしかない店舗は珍しくありません。この状態でAIに在庫や価格の判断を任せても、正しい答えが返ってくる前提が成立していません。

明日から手をつけられる3つの論点

第一に、主力SKUだけでも番号の対応表を1枚作ることです。全商品を一度に整理しようとすると、たいてい途中で頓挫します。売上上位2割の商品に絞り、楽天・Amazon・自社ECと基幹の品番を横並びにした表を作り、どの番号を正とするかを決めます。AI活用の前段ではなく、これ自体が第3段階への入口です。

第二に、FDEを雇えない前提でツールを選ぶことです。前出のCMGのAkinmadeは、導入検討時に「あなたの製品にFDEが必要なら要らない。ブラックボックスも、特定の人しか扱えないものも要らない」と伝えたとされています。この要求水準は、専任のシステム担当を置けない中小EC事業者ほど厳しく適用すべきものです。商談では機能一覧より、自社のデータのどこが引っかかるかを先に指摘できるかを見ます。うるチカラでもAI導入支援サービスの比較で同じ観点を整理しています。

第三に、第1段階で止まっていないかを四半期ごとに点検することです。メール文面や商品説明文の下書きだけにAIを使っている状態は、白書の第1段階そのものです。次に進むには、受注データや問い合わせ履歴といった自社の記録をAIから参照できる形にする必要があります。Microsoftが6,000人規模のAIエンジニアを顧客企業に送り込む動きも、小売業のAI活用が実績の証明段階に入っている流れも、行き着く先は同じ「社内データをつなぐ作業を誰がやるか」です。

なお、June AI の日本市場での提供状況や日本語対応、日本のEC事業者が利用できるかどうかは、現時点の公開情報からは確認できません。同社は米国ニューヨークを本拠とし、グローバルに企業と導入パートナー向けへ展開すると発表するにとどまっています。ここは要確認事項として扱います。

まとめ

AI導入が進まない原因は、モデルの性能ではなく社内データの状態にあります。日本企業の生成AI業務利用は86.4%まで来た一方、社内データと接続できているのは24.5%です。EC事業者がまず着手すべきは、主力SKUの番号対応表という地味な作業であり、それがAIに判断を任せられる範囲を決めます。AIによる差別化の限界を論じる前に、足元のデータが揃っているかを確認する段階にあります。

参考文献

※うるチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴社のEC事業に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://uruchikara.jp/contact/

引用元: TechCrunch


【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)


投稿者: 齋藤竹紘

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。

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