Hulkenは工場を1拠点増やし、3PLを1社に統合して在庫を積み増しました。
年商1億ドル規模のローリングトートブランドが、年末商戦に向けて生産と物流の体制を組み替えています。年末商戦は同社の売上の約40%を占め、ここで在庫を切らすことが1年で最も高くつくからです。多販路で売る事業者にとって、在庫をどのチャネルに何個置くかは年内最後の大きな判断になります。本記事は、EC支援19年・5,000社超の実績を持ち、AI導入支援は2023年から提供する株式会社オルセル(うるチカラ運営)が解説します。
何が起きたか:Q4に売上の40%が集中するブランドの在庫積み増し
結論から書くと、Hulkenは第3の専用生産拠点の追加、米国倉庫の集約、物流委託先の一本化という3つの手を同時に打ち、年末商戦の在庫を積み増しています。Modern Retailが2026年9月8日に報じました。
同社は2018年創業のローリングトートバッグブランドで、外部資本を入れずに累計販売100万個超、累計売上1億ドルを超えています。今年は前年比50%の増収で、その伸びを牽引したのがDTC中心から卸へと重心を移した販路構成の変化です。2026年夏時点で取扱店舗は2,500店を超え、小売経由の売上比率は前年の約16%から約34%へ上がりました。Targetのほか、Amazon、QVC、The Container Storeでも販売されています。
急拡大の裏側で負担が増えたのが生産と在庫です。共同創業者でCEOのYoni Shelegによれば、同社はハンガリーとインドの既存拠点に加えて自社製品専用の第3工場を立ち上げ、需要の山に対応できる生産能力を確保しました。物流面では、卸用とDTC用で分けていた3PLを今年1社に統合しています。同じ在庫プールから卸にもDTCにも振り分けられるようにするためで、Shelegは窓口が2つあるより1つのほうが小さなチームには効率的だと説明しています。ピーク時の不足に対しては、コストが跳ね上がる航空輸送を最終手段として使う構えです。航空運賃の高止まりについては、燃料費高騰でエアフレイトが割高になっている件でも整理しています。
社員9人の体制で、在庫の数え上げと投入タイミングの設計は「科学というより技術」だとShelegは語ります。新規の卸コミットメントと品揃え拡大が重なり、前年のブラックフライデーと第4四半期の実績をそのまま横引きできないためです。
日本のEC事業者にとっての論点:在庫の置き場所と、AIで買う消費者
日本のEC事業者にとっての論点は、この事例が「販路が増えた瞬間に在庫判断が難しくなる」という構造を素直に示している点です。楽天市場、Amazon、Yahoo!ショッピング、自社ECを併走させている事業者ほど、Hulkenが直面した問題は他人事ではありません。
年末商戦の山が高いのは日本も同じです。11月のブラックフライデー、12月に実施されることの多い楽天スーパーSALE、年末年始のギフト需要と、短期間に需要が集中します。ここで在庫をチャネルごとに固定的に分けていると、売れている販路で在庫切れを起こしながら、売れていない販路に在庫が残るという最悪の形になります。Hulkenが3PLを1社に寄せた狙いは、まさにこの「振り分け直せる状態」を作ることでした。日本でも、モールごとに引当在庫を分けるのか、共通在庫として一元管理して安全在庫だけ持つのかは、年末商戦前に決めておくべき論点です。

もう一つ、今年の年末商戦で見落とせないのが買い手側のAI利用です。ポストパーチェス基盤のNarvarが実施した2026年の年末商戦調査では、消費者の65%が年末商戦の買い物のどこか1カ所でAIを使うと回答した一方、AIで買い物体験を改善することに「非常に自信がある」と答えた小売事業者は8%にとどまりました。用途はギフト探しが43%、商品比較とレビュー要約が33%、予算計画が29%、配送追跡や返品リマインドなど購入後の管理が15%です。Chain Store Ageが報じたこの調査は、米国の小売意思決定者100人と18〜80歳の米国消費者1,348人を対象としたものです。日本国内で同水準の利用率になっているかを示す公的統計は確認できていないため、この数字はそのまま日本に当てはめず参考値として扱うべきです(日本の実数は要確認)。
同じ調査では、配送に関する期待もはっきり出ています。76%が送料無料と引き換えなら配送が遅くても受け入れると答える一方、無料配送でも当日(11%)か翌日(18%)が標準であるべきだとする回答が約30%ありました。速さと無料は両立しないという前提を、事業者側が商品ページと決済画面でどう伝えるかが問われます。この点は、在庫の可用性をデータで可視化する取り組みとしてTargetが在庫のデジタルツインを構築した事例とあわせて読むと理解しやすいはずです。
3つの判断軸と、いま取れる初動
年末商戦までに決めるべき判断軸は3つに整理できます。
1つ目は、在庫を「チャネル固定」で持つか「共通プール」で持つかです。共通プールにすれば売れ筋を売れている販路へ回せますが、モールの在庫連携のタイムラグで売り越しが起きるリスクが上がります。品番ごとに、回転が速く欠品損失が大きいものだけ共通プール、残りはチャネル固定という二段構えが現実的です。
2つ目は、緊急補充にいくらまで払うかの上限を先に決めることです。Hulkenが航空輸送を最終手段と位置づけたように、粗利を削ってでも売り切る商品と、欠品を受け入れる商品を事前に線引きしておくと、繁忙期の判断が速くなります。国内でも、緊急の中継輸送や在庫の店舗間移動には同じ構図が当てはまります。
3つ目は、AIで情報収集する買い手に向けて商品ページを整えるかどうかです。比較とレビュー要約にAIを使う買い手が3割いるなら、サイズ・素材・在庫状況・配送目安といった事実情報が構造化されて書かれているかが、AIに拾われるかどうかを分けます。ここは在庫戦略と地続きで、在庫があっても情報が薄ければ候補に残りません。
初動としては、まず昨年の第4四半期の販売実績を週次まで分解し、販路別の山を数字で確認することです。この作業は、CSVを書き出してChatGPTやClaudeに読み込ませ、週次の販売数と在庫日数を並べさせるだけでも十分に速くなります。次に、上位20品番だけで良いので、欠品時の損失額と緊急補充コストを比較し、補充の判断ラインを決めておきます。最後に、商品ページの在庫表示と配送目安の記述を点検し、実態と違う表記があれば商戦前に直しておくことです。返品条件の見直しについては、Q4の返品ポリシーを整理した記事も参考になります。
まとめ
Hulkenの動きは、販路を増やした事業者が年末商戦前に必ず通る道を先取りしています。第4四半期に売上の40%が集中するなら、在庫をどこに置き、いくらまで払って埋めるかを事前に決めておくことが、当日の判断より効きます。加えて、買い手の側はすでにAIを使って比べ始めています。在庫と情報の両方を整えたうえで、年末商戦に入るのが今年の現実的なスタンスです。
参考文献
- Modern Retail|Hulken races to build up inventory ahead of holiday season sales spike
- Chain Store Age|Study finds consumers ready to use AI for holiday shopping — here’s how
- Narvar|Delivering the 2026 Holiday Shopping Season
- Modern Retail|Air freight is becoming a costly fix for inventory issues
※うるチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴社のEC事業に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://uruchikara.jp/contact/
引用元: Modern Retail
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。