航空便で欠品を埋める代償|燃料46%高でもEC在庫戦略が変わる3論点

ジェット燃料が前年比46%高でも欠品を埋めるため航空便に切り替えるブランドが増えています。Capriの在庫25%減など最新事例をもとに、日本のEC事業者が押さえるべき在庫戦略の3論点を解説します。

投稿日: カテゴリー AIニュース

ジェット燃料が前年比46%高でも、欠品を埋めるため航空便に切り替えるブランドが増えています。

Modern Retailが2026年8月17日に報じたところによると、海上輸送の遅延で在庫が積み上がらないブランドが、割高な航空便を使ってでも棚を埋める判断に踏み切っています。背景にあるのはジェット燃料価格の高止まりで、国際航空運送協会(IATA)は2025年比で46%近く高い水準が続いていると報告しています。空輸コストは在庫戦略の最後の逃げ道でしたが、その逃げ道自体が高くつく時代に入りました。本記事は、EC支援19年・5,000社超の実績を持ち、AI導入支援は2023年から提供する株式会社オルセル(うるチカラ運営)が、日本のEC事業者の視点で解説します。

何が起きたか:燃料46%高でも航空便を選ぶブランドが出ている

結論から言えば、欠品による売上機会の損失が、空輸の追加コストを上回ると判断したブランドが実際に動き始めました。理由は単純で、値引き在庫は削れても、定価で売れる主力商品の欠品は決算に直撃するからです。

マイケル・コースとジミー チュウを傘下に持つCapri Holdingsは、第1四半期の決算説明で、マイケル・コースの在庫が前年同期比25%減となったことを明らかにしました。値引き・クリアランス在庫を意図的に絞った計画的な部分もありますが、アジアの港湾混雑による輸送日数の伸びで、定価販売用の在庫が想定どおり届かなかったことも要因だと説明しています。その結果、同四半期の売上高は前年比7.1%減、2027年度の通期売上見通しは34億ドルへ引き下げられました。同社CFO兼COOのタイラー・レディエンは「航空便の選択的な活用を含め、入荷を前倒しする手を打っている」と述べています。

医療用スクラブのFIGSも、米国税関国境警備局(CBP)が発出した違反商品保留命令(WRO)によりヨルダンの取引先と取引できなくなり、別のサプライヤーからの商品を航空便で急送して埋めていると説明しました。同社CFOは、航空便のコストが、今年の関税率が想定より低く済んだプラス分を「ほぼ相殺している」と述べています。つまり関税で浮いた分が、そのまま運賃で消えている構図です。

そしてこの高値は当面続く見込みです。運賃調査会社Xenetaの航空貨物市場レポートは、中東情勢に加えてAIインフラ構築に伴う機材・部材輸送の需要増が、2026年の運賃水準を押し上げ続けると指摘しています。同社のニアル・ヴァン・デ・ワウは「航空会社は上げたときほど早くは運賃を下げない」と述べています。

日本のEC事業者にとっての論点:欠品コストは運賃より高い場合がある

日本のEC事業者にとっての本質は、「空輸が高いか安いか」ではなく、「欠品が何を壊すか」を金額で持っているかどうかです。海外から仕入れる商材を扱う店舗は、この計算式を先に用意しておく必要があります。

楽天市場では、在庫切れで商品ページが購入不可になると、その期間の売上がゼロになるだけでは済みません。売れ筋ランキングの掲載順位や、検索結果での露出は直近の販売実績に強く影響されるため、欠品から復活した直後は元の位置まで戻らないことが多くあります。お買い物マラソンやスーパーSALEの直前に主力SKUを切らすと、イベント全体の売上が落ちるうえ、次のイベントまで回復に時間がかかります。

Amazonでも構図は同じです。FBA在庫が枯渇すればカートボックスの獲得は止まり、スポンサープロダクト広告は配信できなくなります。復帰後にキーワードの入札単価を上げ直すコストまで含めると、欠品の実費は「売れなかった金額」より大きくなります。在庫パフォーマンス指標に長期的な影響が出る点も、納品計画を組み直す際の判断材料になります。

だからこそ、空輸に切り替えるかどうかは感覚で決めず、SKU単位の損益分岐で判断すべきです。目安になる考え方はシンプルで、空輸で前倒しできる日数×1日あたり粗利額が、空輸と海上輸送の運賃差額を上回るなら空輸に合理性があります。ここに、前述の順位下落やリスティング広告の停止による回復コストを上乗せして評価すると、主力SKUほど空輸が正当化されやすくなります。逆に、粗利率が低く回転も遅い商品は、欠品を受け入れて次の海上便を待つほうが利益は残ります。全SKUを一律で空輸に切り替える判断は、まず得策ではありません。

今後の展望と初動:AI活用を含む3つのアクション

今後1年は、運賃が下がる前提での在庫計画は立てにくい状況が続くとみておくのが安全です。Xenetaのレポートも、前年比では市場が軟化しつつも、運賃の急落は期待しにくいと示しています。関税環境も流動的で、記事内では8月19日を期限とするカナダ産の一部品目への50%関税が焦点として挙げられていました。日本のEC事業者にとっても、調達先を1国に依存している商材ほどリスクが高い状況です。

第一に、SKUごとの「欠品1日あたりの損失額」を数値化してください。過去12か月の日次販売データから、主力SKUの1日平均粗利を出すだけでも、空輸の是非を金額で語れるようになります。ChatGPTやClaudeに楽天RMSやAmazonセラーセントラルの販売データを読み込ませ、粗利上位20SKUの日次粗利と在庫回転日数を一覧化させる使い方は、表計算に不慣れな店舗でもすぐ試せます。

第二に、リードタイムの実測値を更新してください。多くの店舗が数年前の日数のまま発注点を運用しています。直近6か月の実績に基づいて発注点と安全在庫を引き直すだけで、空輸に頼る場面そのものを減らせます。

第三に、調達先の二重化を検討してください。FIGSの事例が示すとおり、供給停止は自社の努力と無関係に突然起きます。主力SKUだけでも第二サプライヤーの見積もりを取っておくと、緊急時に空輸へ逃げる回数を抑えられます。なお米国では、Targetが在庫配置のデジタルツイン「Proxima」を自社開発し、意思決定を実行前にシミュレーションする取り組みを進めています。同様の発想は、規模の小さい店舗でも発注シナリオの比較という形で取り入れられます。

まとめ

航空便は在庫危機の万能薬ではなく、燃料46%高の環境では高くつく応急処置です。日本のEC事業者がとるべきスタンスは、空輸の可否を感覚で決めず、SKU単位の日次粗利と順位回復コストを含めた損益分岐で判断することです。そのうえでリードタイムの実測更新と調達先の二重化を進め、そもそも空輸に頼らずに済む在庫設計へ寄せていくのが現実的な打ち手です。

参考文献

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引用元: Modern Retail


【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)


投稿者: 齋藤竹紘

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。

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