UPSや米郵政公社が相次いで燃料サーチャージを導入し、海外ECブランドの配送コストが急上昇しています。送料の上昇はもはや一時的な値上げではなく、配送手段そのものを戦略的に選び直す動きへと変わりつつあります。米EC業界で起きているこの送料コスト上昇への対応は、燃料費や物流費の上昇に同じく直面する日本のEC事業者にとっても、送料設定や送料無料ラインの見直しを迫る論点として無視できません。本記事では何が起きているかを整理し、楽天・Amazon・Shopify・Yahoo!ショッピングを運営する事業者向けの初動を解説します。
何が起きたか:主要配送会社が相次いで燃料サーチャージを導入
Modern Retailによると、主要配送会社が新たな燃料サーチャージを導入し、ECブランドが配送手段の工夫を迫られています。
具体的には、UPSがインド・中国・香港から米国向けの貨物に緊急サーチャージを設定したほか、米国から海外発送する貨物に1ポンドあたり0.32ドル、イスラエルやアラブ首長国連邦向けには1ポンドあたり1.50ドルの追加料金を課しました。米郵政公社(USPS)も4月下旬に8%の暫定燃料サーチャージを導入し、少なくとも2027年1月まで継続される見込みです。
物流ソフトウェア企業Auctaneの最高戦略責任者であるJosh Steinitzは、燃料サーチャージは配送会社が基本料金を動かさずに自社のコスト増を吸収する手段であり、料金改定に法的な制約があるUSPSでとくに多いと説明しています。同社によると、ECブランドは配送会社を選ぶ前に料金・配送スピード・大口発送の条件を比べる「相見積もり」を増やしており、物流が差別化のポイントになりつつあるとのことです。
さらにSteinitzは、米小売最大手ウォルマートが燃料価格の上昇とホルムズ海峡の閉鎖を理由に値上げの可能性を警告し、グローバルの物流・配送業務で約1億7,500万ドルの想定外の燃料コストを吸収したと述べた点にも触れています。中東情勢の緊迫が続けば、配送会社の約15%という利益率はすぐに削られ、サーチャージのさらなる上乗せにつながりかねないと指摘しています。
日本のEC事業者にとっての論点:送料無料ラインと物流費の再設計
この動きは対岸の火事ではありません。日本でも燃料費や人件費の上昇を背景に、ヤマト運輸や佐川急便など宅配各社が運賃改定を続けており、EC事業者の送料負担は年々重くなっています。米国のブランドが「配送会社を一社固定にせず戦略的に選び直す」方向へ動いているのは、日本の事業者にとっても示唆的です。
第一に効いてくるのが、送料無料ラインの設定です。楽天市場では2024年の「送料無料ライン」共通化以降、3,980円以上で送料を店舗が負担する設計が定着しており、配送コストが上がるほど店舗側の利益が圧迫されます。Amazonでも出品者がFBA手数料や配送料の上昇分をどこまで価格に転嫁するかが、カート獲得や転換率に直結します。Shopifyや自社ECでは送料設定の自由度が高いぶん、送料無料ラインを引き上げるのか、商品単価に薄く乗せるのかを自社で判断する必要があります。
第二に、Steinitzが指摘した「高単価の商品は速い配送を店舗が負担し、低単価の商品は遅い配送をユーザー負担にする」という単価別の出し分けは、日本でも応用できる考え方です。全商品を一律の送料無料ラインで扱うのではなく、利益率の高いカテゴリと低いカテゴリで配送条件を変えることで、物流費の上昇を吸収しやすくなります。AI搭載のフルフィルメント自動化ツールの利用が増えているという同社の指摘も、配送手段の最適化を人手の勘に頼らず仕組み化する流れとして注目に値します。
今後の展望と初動アクション
燃料費の高止まりが続く前提で、日本のEC事業者が今月から着手できる初動を整理します。
まず、現在契約している配送会社の料金表とサーチャージの最新版を取り寄せ、直近3カ月の平均配送単価を商品カテゴリ別に把握してください。一社固定のままでは値上げをそのまま飲むしかなくなるため、複数社の見積もりを取り、配送スピードと料金のバランスを比べる体制をつくることが第一歩です。
次に、送料無料ラインの妥当性を検証します。客単価に対して無料ラインが低すぎると、配送コストの上昇分がそのまま赤字になります。楽天市場であれば共通の送料無料ラインを維持しつつ、まとめ買いを促す同梱割引やセット商品で実質単価を引き上げる設計が有効です。
三つめに、利益率の高い商品とそうでない商品で送料負担の出し分けを検討してください。全商品一律ではなく、高単価品は店舗負担の速達、低単価品はユーザー負担の通常便といった設計が、物流費上昇局面での利益防衛につながります。Shopifyや自社ECでは配送ルールを商品タグ単位で設定できるため、ここを起点に運用を始めるとよいでしょう。
まとめ
燃料費の高騰による送料上昇は一時的な事象ではなく、配送手段を戦略的に選び直す転換点になりつつあります。日本のEC事業者は、配送会社の相見積もり、送料無料ラインの再設計、単価別の送料出し分けの三点を起点に、物流費の上昇を価格と運用の両面で吸収する備えを早めに進めることが求められます。
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引用元: Modern Retail
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。