AI動画市場は、Soraの失速後に法人向け販促動画を軸として再拡大しています。
The Decoderは2026年8月17日、AI動画の市場がOpenAIのSoraの失速を経て、ハリウッドの制作現場と企業のマーケティング用途を両輪に再び拡大していると報じました。象徴的な数字が、動画スタートアップHiggsfieldの年間換算売上が1年で2,000万ドルから7億ドルへ、つまりおよそ35倍に伸びたという点です。消費者向けアプリが盛り上がらなかった一方で、法人の販促動画という地味な用途が市場を押し上げた構図は、日本のEC事業者にとっても示唆があります。本記事は、EC支援19年・5,000社超の実績を持ち、AI導入支援は2023年から提供する株式会社オルセル(うるチカラ運営)が解説します。
AI動画市場で何が起きたか、数字で見る現在地
結論から書くと、AI動画は「話題のデモ」から「値付けと職種が存在する産業」へ移りました。理由は、収益化できた領域がはっきりしたためです。
その代表例がHiggsfieldです。Financial Timesの報道をもとにThe Decoderがまとめたところによると、元Snap幹部のAlex Mashrabovが創業した同社は4億ドルを調達し、企業価値は54億ドルに達しました。8か月前の13億ドルからおよそ4倍です。年間換算売上は2,000万ドルから7億ドルへ伸び、投資家にはDST Global、Goldman Sachs、Liberty Global、Intelが名を連ねています。
注目すべきは顧客構成の変化です。2026年1月時点では法人顧客が売上の4分の1未満でしたが、現在は過半を占めるまでになりました。Mashrabovによれば、Dollar Shave Clubのようなブランドは1日に複数本のマーケティング動画を制作しており、以前はキャンペーン動画を1本作るのがやっとだった体制から大きく変わっています。
制作現場側の動きも具体的です。The Guardianの取材によると、カルバーシティのAIスタジオPromiseは、白い布を張っただけのオフィスの一角で、中国製モデルSeedance 2.5がリアルタイムに生成する草原の背景を俳優の動きに重ねながら撮影しています。共同創業者のGeorge Strompolosは、人間の俳優とAIを組み合わせたハイブリッド制作は従来の映画より20〜50パーセント安く済むと見積もっています。Netflixは1,000タイトルのうち300でAIを使う見通しを示し、Ron HowardがAIスタジオObsidianと組むアニメーションドキュメンタリーでは30〜40パーセントの節約が見込まれています。
一方で、Soraそのものは期待通りには進みませんでした。2024年初頭のデモで技術的に先行したものの、公開版は期待に届かず、2025年秋のSora 2アプリも定着しないまま打ち切られ、Disneyとの大型提携も白紙に戻りました。
日本のEC事業者にとっての3つの論点
日本のEC事業者にとって重要なのは、市場が伸びた理由が「映画」ではなく「販促動画の量産」だった点です。楽天市場、Amazon、Shopify、Yahoo!ショッピングのいずれで運営していても、商品ページとSNS広告の動画枠は年々増えており、制作本数がボトルネックになりやすい領域だからです。
論点の1つ目は、動画は1本の完成度より本数と検証回数で効いてくるという前提の変化です。Dollar Shave Clubが1日複数本を回しているという事例は、キャンペーンごとに数十万円をかけて1本を作る従来型と、素材を差し替えて毎日試す型では、学習速度がまったく違うことを示しています。楽天市場の商品ページ内動画、Amazonのブランドストアや商品紹介コンテンツ、Shopifyの商品ページ動画、TikTokやInstagramのリール広告は、どれも短尺で差し替えが効く枠です。
2つ目は、権利と表示の扱いです。Seraphinne ValloraがGuess向けにAIモデルを制作し、New York TimesによればInception Point AIは100を超えるAIペルソナと5,000以上のポッドキャストを運営しています。SpotifyはこうしたアカウントにAI Personaのタグを付ける方針を示しました。日本でも、生成した人物モデルに商品を着せて広告に使う場合、モール側の審査基準や景品表示法上の実際の商品との差異が論点になります。生成物である旨の表示ルールはプラットフォームごとに整備が進んでいる段階で、現時点の各モールの規定は要確認です。
3つ目は、内製と外注の線引きです。ハイブリッド制作で20〜50パーセントのコスト削減という数字は、AIが人と工程を置き換えたというより、背景や差分の生成をAIに寄せた結果です。EC運営でも、商品撮影そのものは実写で押さえ、背景差し替え、尺違い、テロップ違い、縦横比違いをAIで量産する切り分けが現実的です。
今後の展望と、明日からの初動
今後は、消費者向けの汎用動画アプリより、業種特化の販促プラットフォームに資金と人材が集まる流れが続くと見ています。Higgsfieldの法人比率が1年足らずで4分の1未満から過半へ動いた事実は、支払い意思があるのは「作品」ではなく「毎日回る広告素材」だという市場の答えだからです。
初動としては、まず自社の売れ筋上位10商品について、既存の実写素材から縦型15秒の派生を各3本作り、広告とモール内枠で2週間回して比較するところから始めるのが現実的です。次に、生成物であることの表示要否を出稿先ごとに確認し、社内の承認フローに「誰が最終確認するか」を一行足しておきます。さらに、生成に使ったプロンプトと素材の出所を商品単位で記録しておくと、後から差し替えや権利確認をする際の手戻りが減ります。
社内体制としては、動画を作れる人を採用するより、既存の運用担当が週1時間だけ動画差し替えに使える状態を作るほうが効果が出やすい局面です。AI活用の全体像については、AI検索時代のEC集客をDTC4社の事例から読む記事や、生成画像の透かし表示が商品画像運用に与える影響をまとめた記事もあわせて参考にしてください。AI生成コンテンツがカタログを埋め尽くすリスクについては、Amazonで生成本が急増している件の記事で触れています。
まとめ
AI動画市場は、消費者向けアプリではなく法人の販促用途で立ち直りました。Higgsfieldの年間換算売上35倍、ハイブリッド制作の20〜50パーセント安という数字は、EC事業者にとって「1本の作り込み」から「本数と検証」への転換を示しています。まずは売れ筋商品の派生動画を小さく回し、表示ルールと素材の記録だけ先に整えておくのが現実的な一歩です。
参考文献
- The Decoder: AI video market has bounced back from Sora’s false start
- The Guardian: Directors embracing AI film-making
- Financial Times: Higgsfield raises at a $5.4bn valuation
- New York Times: AI podcasts, fashion and pop avatars
- The Decoder: OpenAI launches Sora video generator for ChatGPT subscribers
※うるチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴社のEC事業に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
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引用元: The Decoder
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。