Amazonが、自社最大の商戦であるプライムデーの集客に、生成AIチャットのChatGPTを広告枠として使い始めました。AIチャットを「外部の脅威」として遮断してきたAmazonが、一方では広告主としてその画面に入り込む。この一見矛盾した動きは、検索からAIチャットへと商品探索の入口が移りつつある現実を映しています。日本のEC事業者にとっても、AI経由の流入をどう取りにいくかという論点を突きつける出来事です。

何が起きたか:プライムデー広告がChatGPTに出現
Modern Retailによると、ChatGPTで「best deal on Apple 11-inch iPad(アップルの11インチiPadの最安値)」と尋ねると、プライムデーセールへ誘導するスポンサー広告が表示され、クリックするとAmazonのECサイトへ遷移したと、独立系のEC分析家であるJuozas Kaziukėnasが報告しています。最初にこの動きを報じたのはBusiness Insiderで、Amazon自身はコメントを控えています。
Amazonの4日間のプライムデーは火曜に始まり金曜まで続きますが、立ち上がりは慎重との見方が出ています。Numeratorの初期データでは1世帯あたりの平均支出は前年を下回るペースで、消費者は日用品や低価格帯に絞り、大型商品の値引き拡大を待っている様子だと伝えられています。
OpenAIは今年に入ってChatGPT内のスポンサー枠の販売を開始しており、広告主にはWilliams Sonomaやベッド・バス・アンド・ビヨンドなどが名を連ねます。Kaziukėnasは今回のAmazonの出稿を「これは本当にテストにすぎない」と評しており、多くの企業がこの新しい広告プラットフォームの実力を見極めようとしている段階だと指摘しています。
なぜ重要か:遮断しながら広告を出すAmazonの二面戦略
注目すべきは、Amazonが外部のAIエージェントに対しては強硬な姿勢を崩していない点です。Modern Retailの確認では、AmazonはChatGPTを含むおよそ100種類のボットをrobots.txtで遮断し続けており、今年はPerplexityのAIブラウザ「Comet」による商品データの収集を差し止める裁判所命令も得ています。CEOのアンディ・ジャシーは、サードパーティのエージェントの体験は「まだ良くなっていない」と述べ、価格表示の不正確さや商品情報の欠落を理由に挙げています。
それでも広告は出す。これは、自社の商品データをChatGPTに吸い上げられることは拒みつつ、広告という形でユーザーを自社サイトへ引き戻し、体験と決済を自社の管理下に置く狙いだとeMarketerは分析しています。AmazonはRufusをAlexa+の「Alexa for Shopping」へ統合し、ディールガイドや価格追跡といった自社AI機能の強化を進めています。同社が今回のように個別商品ではなくプライムデー全体という幅広い広告にとどめているのも、まだ様子見の段階であることを示しています。
背景には、AmazonとOpenAIの複雑な関係もあります。昨年11月にOpenAIはAmazon Web Servicesと380億ドル規模の契約を結び、2月にはAmazonがOpenAIへ500億ドルを投資すると発表しました。両社は協業しながらも、マーケットプレイスの開放では一線を引いている、という入り組んだ構図です。
日本のEC事業者は何を見るべきか
ここからは日本のEC事業者向けの論点です。今回の出来事が示すのは、「商品を探す場所」が検索エンジンやモール内検索から、AIチャットへと広がり始めたという流れです。日本ではChatGPT広告の提供状況がまだ限定的とみられ、国内で同じ枠が買えるかは要確認ですが、流入の入口が変わる方向性は共通します。
楽天市場やYahoo!ショッピングに出店している店舗は、外部サイトへの誘導に規約上の制約があるため、AIチャット経由の集客を自店で直接設計するのは難しいのが実情です。一方で自社ECやShopifyを持つ事業者は、AI経由の流入を自らの判断で取りにいけます。実際、Shopifyは先週、ChatGPTなどAIサービスからの流入と売上を計測できる分析機能を提供し始めました。まずは自社サイトにAIからの訪問がどれだけ来ているかを可視化することが、最初の一歩になります。
具体的な初動としては、第一にGoogle Search ConsoleやShopifyの解析でAI経由の参照流入を点検すること、第二に商品名・商品説明をAIが正確に読み取れる構造化されたテキストに整えること、第三にChatGPT広告のような新興チャネルが日本で本格提供された際にすぐ検証できるよう、計測の土台を先に作っておくことが挙げられます。新しい広告面は競合が少ないうちほど安く獲得できる可能性が高い、というのがKaziukėnasの見立てでもあります。
まとめ
Amazonが遮断と広告出稿を同時に進めるこの一手は、AIチャットが無視できない集客チャネルへ育ちつつあることの証左です。日本のEC事業者は、楽天やYahoo!の規約内でできることと、自社EC・Shopifyで攻められることを切り分けたうえで、まずはAI経由流入の可視化から着手するのが現実的なスタンスといえます。
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引用元: Modern Retail
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。