AI活用は「実証フェーズ」へ|EC事業者が問われる3つの論点

海外小売カンファレンスでAI活用は実証フェーズへ。Macy’s400%増など事例と、日本のEC事業者が押さえるべき3つの論点・初動アクションを解説します。

投稿日: カテゴリー AIニュース

海外の大型小売カンファレンスで、AIをめぐる会話の質が変わりました。「AIで何ができそうか」を語る段階は終わり、「実際にAIで何をやっているのか」「成果は出ているのか」を示せるかどうかが、ブランドと小売の評価を分ける軸になっています。Modern RetailがShoptalk Spring 2026の現場から報じた変化は、楽天・Amazon・Shopifyを運営する日本のEC事業者にとっても他人事ではありません。

カンファレンスの主題が「構想」から「実証」へ移った

Modern Retailによると、2年前のShoptalkではAIの「リスクとメリット」が議論の中心でした。昨年は接客や在庫計画といった業務効率化の話題に移り、今年はさらに踏み込んで「自社には本物のAI戦略がある」と証明し合う場へと変質したと報じられています。

具体的な数字を伴う事例も登場しました。Macy’sが導入した買い物アシスタント「Ask Macy’s」では、初期テストの段階で、利用した買い物客が利用しなかった客に比べて400%多く支出したとされています。David’s Bridalは結婚式の準備を支援するAIプラットフォーム「Pearl」によって、サイト滞在時間が伸びたと説明しています。デジタルマーケティング代理店Withinのジョー・ヤクエルは、現場でAI活用について尋ねるとき「何ができると思うかではなく、実際に何をやっているのかを聞く。その二つの間にある溝はとてつもなく大きい」と語っています。

一方で、誇大広告と現実を切り分ける作業も残っています。ChatGPTが対話画面内で決済まで完結させるInstant Checkoutから後退したことは象徴的でした。コンサルタントのジェシカ・ラミレスが自身のニュースレターとSNSで実施した非公式調査では、回答者の73%が仕事でAIを使う一方、買い物に使う人はわずか6.6%にとどまったとされています。消費者はまだ「AIの何が好きで、何が嫌いか」を見極めている途中だという指摘です。

日本のEC事業者にとっての3つの論点

この変化は、日本の楽天・Amazon・Shopify運営者の判断にも直結します。論点は大きく三つに整理できます。

第一に、ツール導入の話から「業務プロセスの再設計」への移行です。化粧品ブランドのe.l.f.は、最高デジタル責任者エクタ・チョプラが説明する四つの柱からなるAI戦略を持ち、人の生産性向上やLLM上での存在感確立に加えて、全プロセスをAIで再構築し、どの工程が端から端まで自動化できるかまで検討しています。楽天店舗でいえば、ChatGPTで商品名を1本だけ作るのではなく、商品登録から楽天R-Mail、RPP広告のキーワード見直しまでを一連の流れとして組み直す発想に近いと言えます。

第二に、成果の可視化です。Macy’sの400%という数字は導入の動機づけになりますが、日本の店舗では同じ数字をうのみにはできません。自店の購入完了率やレビュー対応時間、商品ページの離脱率といったKPIで、AI導入の前後を必ず比較することが現実的です。指標を決めずに「とりあえず生成AIを入れた」状態は、今年の基準では評価されにくくなりました。

第三に、変化対応(チェンジマネジメント)です。チョプラは「AIは組織にとって大きな変化として扱うべきで、従業員の役割や肩書きがどう変わるかまで考える必要がある」と述べています。スタッフがAIを警戒したまま導入だけ進めると、現場では使われずに終わります。

初動として日本のEC事業者がやるべきこと

まず、自店の業務を棚卸しし、AIで「効率化」する工程と「これまでできなかったこと」を実現する工程を分けて書き出すことから始めます。商品説明の下書きや在庫データの分析は前者、競合の価格動向を毎日要約させて値付けに反映する仕組みは後者にあたります。

次に、効果測定の指標を1〜2個だけ先に決めます。CVR、レビュー返信の所要時間、問い合わせ一次回答の時間など、現状値が取れるものを選ぶのが定石です。指標が取れない場合は、計測の仕組みづくりを先に片づけます。

最後に、消費者がまだAI決済に慣れていない現実を踏まえ、対話型コマースへの過度な前のめりは避けます。ラミレスの調査が示すように、購買接点での主役は依然として通常の商品ページとカートです。AIは購入前の情報整理や接客の質を底上げする方向に投資するほうが、2026年時点では費用対効果が見込めます。

まとめ

今年問われているのは「AIを入れたか」ではなく「AIで何を変え、どんな成果が出たか」です。日本のEC事業者は、業務プロセスの再設計、KPIによる成果の可視化、現場の変化対応の三点を押さえ、派手な事例より自店の数字で語れる状態を先につくることが、足元の優先課題になります。

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引用元: Modern Retail


【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)


投稿者: 齋藤竹紘

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。

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