AI禁止クラスが2年連続で最下位|学生230人実験に学ぶ社内AI方針3論点

AI禁止クラスが2年連続で最下位という結果が出ました。アムステルダム自由大学が延べ230人で実施した2年間の実験から、「禁止」「野放し」「研修つき」の成績差と、社内AI方針を決めるときに押さえたい3つの論点を解説します。

投稿日: カテゴリー AIニュース

オランダの法学者が2年かけた実験で、AI禁止クラスが2年とも最下位になりました。

アムステルダム自由大学(VU Amsterdam)の法学研究者 Thibault Schrepel が、自身の講義で学生を「AI禁止」「AI野放し」「AI研修つき」の3グループに分け、2年にわたって成績を比較しました。延べ230人の結果は、禁止グループが2年とも最下位というものでした。研究者自身が「私は間違っていた」と記しています。AIを社内で禁止するか解禁するかを迷っている企業にとって、判断材料になる実験です。本記事は、EC支援19年・5,000社超の実績を持ち、AI導入支援は2023年から提供する株式会社オルセル(うるチカラ運営)が解説します。

AI禁止クラスが2年とも最下位になった実験の中身

結論から書くと、この実験は「AIを使わせない」という選択肢が最も成績が悪かったことを示しています。The Decoder が2026年9月13日に報じた内容によれば、Schrepel は自身の「Law of AI」講義の受講生をランダムに3グループへ分けました。

課題は全グループ共通です。4〜5人のチームに分かれ、20分でEU AI Actの条文を1つ改善するというもので、内容の妥当性、明確さ、比例性、新規性の4観点で採点されました。第1グループはChatGPTの使用禁止。第2グループは条文にChatGPTが生成した修正案があらかじめ埋め込まれており、その後もツールを使えますが、使い方の指導は一切ありません。第3グループだけが、法務向けのプロンプト設計と、AIの提案が整合的で正確かを検証する手順について実地訓練を受けました。

実験は2024年に66人、2025年に164人で実施され、合計230人が参加しています。全員が同じ多肢選択試験と、別のAI Act条文を改訂させる持ち帰り試験を受けました。

禁止グループの挙動が特徴的でした。多くのチームは言い回しの微修正と冗長な記述の削除にとどまり、実質的な法的改善に踏み込んだのは一部だけでした。そして10〜15分が経過するとネタ切れになるチームが続出し、Schrepel はこれを「アイデアの枯渇(idea exhaustion)」と呼んでいます。ただし、AIがないぶんメンバー同士の議論は深くなったとも記録されています。

なぜ重要か|「禁止」「野放し」「研修つき」は企業の社内AI方針と同じ3分岐

この実験がビジネス読者にとって重要なのは、3つのグループ分けが、そのまま企業が今まさに迷っている社内AI方針の3分岐と重なるからです。念のため書いておくと、この研究はあくまで法学部の学生を対象にしたもので、職場での再現性を検証したものではありません。以下は実験結果から引き出せる示唆であり、研究が職場について述べた結論ではありません。

興味深いのは第2グループ、つまり「使わせるが教えない」という最も現場で起きがちな状態です。学生たちはAIの提案を「そのほうが良さそうだから」という理由でほぼ無検証に受け入れ、法的な含意を理解しないまま「shall」や「individual」といった語を置き換えていました。全チームが、ChatGPTの出力から誤解を招く語または法的に余計な語を最低1つ残していたといいます。

ところが試験の成績では、この第2グループは禁止グループをわずかに上回りました。Schrepel はこれを予想外だったと述べ、「私は間違っていた」と明記しています。彼の解釈は、正確さが実際の結果に響く場面では、学生は自分で使ううちにAIの弱点を見抜けるようになる、というものです。

一方で「研修つき」の第3グループだけが、AIと本当の意味で往復のやり取りをしていました。複数の言い回しを試し、課題の背後にある実質的な論点まで掘り下げていたのはこのグループだけです。禁止は最下位、野放しは検証をしない、研修つきは対話ができる。この3つの差は、社内でChatGPTやClaudeをどう扱うかを決める際にそのまま当てはまる構図です。関連する動きとして、キャタピラーが11.8万人規模のAI研修に1億ドルを投じた事例はこちらの記事で、UBSが2027年入社の採用要件にAI活用実績を加えた件はこちらの記事で詳しく扱っています。

今後の動き|研修の優位は1年で縮み、次の争点は評価の設計へ

今後注目すべきは、研修の効果がどれだけ持つかという点です。2024年には研修グループが他の2グループを明確に上回り、特に難度の高い持ち帰り試験で差が出ました。ところが2025年には、その差がほぼ消えています。3グループの成績がほぼ横並びになったのです。

Schrepel はこれを、学生の側でチャットボットに慣れが進んだためだと説明しています。日常的にツールを使う学生が増えた結果、形式的な研修が生む上積みが1年で目減りしたという見立てです。ただし倫理的な使い方と法的責任については引き続き教える必要があるとも付け加えています。裏を返せば、基本操作を教える研修の賞味期限は短く、次に問われるのは「何を評価するか」の設計だということになります。

Schrepel は、学部長クラスは一律の禁止令を避け、教員に実験の余地を与えるべきだと主張しています。加えて、修士論文のあり方も見直すべきだとしています。長い時間をかけて調査と論証に取り組むという核心的な価値が、AIツールで数分に短縮されてしまうためです。純粋な文献レビューはもはや評価対象にすべきではなく、実務志向あるいは実証的な研究を課し、思慮深いAIの使い方そのものを採点に含めるべきだという提案です。

もっとも、すべての大学がこの方向に動いているわけではありません。カリフォルニア大学バークレー校ロースクールは、成績評価の対象となるほぼすべての課題でAIを禁止しています。将来の法律家は、AIを有効に使う前にまず中核的な思考力を鍛える必要がある、という立場です。

Schrepel 自身も研究の限界を認めています。サンプル数が少ないこと、AI科目の受講生で平均より技術に明るい層である可能性が高いこと、持ち帰り試験で実際にどれだけAIを使ったか確認できないことです。この最後の点は軽くありません。他の研究は、監督のない課題でAIの影響が最も強く出ることを示しています。バークレーの50万件超の成績を対象にした調査では、ChatGPT公開後、文章作成とプログラミングの比重が高い科目でA評価の割合が13ポイント上昇した一方、監督付き試験では同等の変化が見られませんでした(The Decoder の解説)。中国中部の2万6,000人超のK-12生徒を追跡した縦断研究でも、宿題の成績は上がる一方、試験の成績は最大24%下がったと報告されています(同じく The Decoder の解説)。AIが自力の思考を支えるのではなく置き換えたところで、損失が最も大きかったという整理です。

まとめ

延べ230人・2年間の実験で明らかになったのは、AI禁止が2年とも最下位だったこと、研修の優位が1年で縮んだこと、そして「使わせるが教えない」状態でも検証能力はある程度育つことの3点です。禁止して守れるものは思ったより少なく、研修の効果は思ったより早く減衰します。社内AI方針を考えるなら、使わせるかどうかではなく、何を成果として評価するかを先に決めるのが近道になりそうです。生成AIの社内導入を中小企業がどう進めたかは中小1000社のAI導入事例も参考になります。

参考文献

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https://uruchikara.jp/contact/

引用元: The Decoder


【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)


投稿者: 齋藤竹紘

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。

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