AIが見つけた脆弱性のうち、実際に悪用されたのは1.3%でした。
脆弱性インテリジェンス企業のVulnCheckが2026年7月28日、2026年上半期の悪用状況をまとめたレポートを公開しました。AIが脆弱性を大量に見つけると攻撃者が有利になる、という2026年前半の警戒論に対して、実データはほぼ真逆の結果を示しています。同時にこのレポートには、日本のEC事業者が今週から手を打つべき具体的な優先順位が含まれていました。本記事は、EC支援19年・5,000社超の実績を持ち、AI導入支援は2023年から提供する株式会社オルセル(うるチカラ運営)が解説します。

AI発見の1,061件のうち、悪用が確認されたのは14件でした
結論から言えば、AIが見つけた脆弱性は、人間が見つけたものと比べて危険度が変わりませんでした。VulnCheckのPatrick Garrityは、Anthropicの公開分とBerkeley Vulnerability Research Initiativeという2つのデータセットを統合し、AI支援で発見された1,061件の脆弱性を追跡しました。このうち実際に悪用が確認されたのは14件、率にして1.3%です。これは同じ2026年上半期の全脆弱性の悪用率とほぼ同じで、過去の水準よりむしろ低い数字でした。AIによる脆弱性検出そのものは、小型モデルでも実用水準に届きつつあることが2026年に入って各社から示されており、発見の量が増えること自体は前提として受け止めておくべき変化です。
さらに象徴的なのがAnthropicの取り組みです。同社は2026年4月にProject Glasswingを発表し、5月に開示台帳を公開して23,019件の指摘を挙げたと表明しました。しかしレポート執筆時点でCVEとして公開されたのは126件、実際に悪用が確認されたのはCVE-2026-26980の1件だけです。台帳自体も公開時の1,611件から増えていないとVulnCheckは指摘しています。Garrityは「今日得られている証拠に照らせば、AI支援による脆弱性発見は過大に評価されてきた」と結論づけました(引用元はVulnCheck)。この見方はCyberScoopやInfosecurity Magazineでも同様に報じられています。
ECサイトを直撃しているのはCMSとプラグインです
一方で、悪用の実態には日本のEC事業者が見過ごせない偏りがありました。2026年上半期に確認された悪用済み脆弱性(KEV)495件のうち、CMSがカテゴリ別で3分の1を占め、過去のどの時期よりも高い比率になっています。その大半はWordPressプラグイン起因で、Drupal、Ghost、Kentico Xperienceなども対象に入っています。最初に悪用を報告したソースの上位もPatchstackが70件、Wordfenceが20件と、WordPress周辺を監視する事業者が並びました。
時間の余裕も縮んでいます。CVE公開からKEV入りまでの中央値は2025年の120日から2026年上半期は80日に短縮し、KEVの23.43%はCVE公開日かそれ以前にすでに悪用の証拠がありました。自社ECをWordPressとWooCommerceで運用している、あるいはEC-CUBEやコーポレートサイトのWordPressと決済サイトを同じサーバーに同居させている場合、この数字は他人事ではありません。攻撃側の自動化も進んでおり、機械速度で古い設定不備を突く攻撃の実例はすでに観測されています。
日本側の制度もすでに追いついています。クレジット取引セキュリティ対策協議会が2025年3月に公表したクレジットカード・セキュリティガイドライン6.0版では、EC加盟店に対してシステムとWebサイトの脆弱性対策として、管理画面のアクセス制限とID・パスワード管理、ディレクトリ露見に伴う設定不備への対策、Webアプリケーションの脆弱性対策、マルウェア対策、悪質な有効性確認とクレジットマスターへの対策という5項目の導入が求められました(解説はLAC WATCH、6.1版も公表済み)。背景にある被害額も無視できません。日本クレジット協会の集計では2025年通年のクレジットカード不正利用被害は510億5,000万円、そのうち番号盗用が475億4,000万円と約93%を占めています(日本ネット経済新聞)。

今週着手すべき3つの対策
やるべきことは、AI由来かどうかで慌てることではなく、悪用の証拠がある領域から順に潰すことです。
第一に、使っていないWordPressプラグインとテーマの棚卸しです。停止したまま残っているプラグインもファイルが存在する限り攻撃対象になります。導入時期と最終更新日を一覧にして、半年以上更新が止まっているものは代替を検討してください。CMSがKEVの3分の1を占める以上、ここが最も費用対効果の高い一手です。棚卸しの手順そのものは生成AIに下調べを任せる進め方でも短縮できます。
第二に、管理画面のアクセス制限です。IP制限、二要素認証、初期URLの変更は、ガイドライン6.0版の第1項目にそのまま対応します。決済を伴う自社ECであれば、この対応状況をカード会社や決済代行会社から確認される場面が今後増えていきます。
第三に、パッチの優先順位づけを「悪用の証拠があるかどうか」に切り替えることです。無償公開されているVulnCheck KEVやCISAのKEVカタログを見れば、実際に攻撃が観測された脆弱性が分かります。米CISAはBOD 26-04で、悪用の証拠、自動化のしやすさ、技術的影響、外部公開の有無がそろう場合は3日以内の適用を推奨しています。すべてのCVEを同じ緊急度で扱う運用は、限られた人員では続きません。
なお、AI製品そのものが新しい攻撃面になっている点も見逃せません。VulnCheckはAIシステムで28件のKEVを確認し、うち10件で実際の悪用活動を観測しています。LangFlowではCVE-2026-0769とCVE-2026-5027を足がかりに侵入し、OpenAIやClaudeのAPIキーとみられる認証情報を窃取したうえ、クリプトマイナーの設置や横展開まで試みる動きが見つかりました。社内でAIワークフローツールを自前ホストしているEC事業者は、業務システムと同じ基準で棚卸しの対象に加えてください。AIエージェントに渡す権限の切り分け方も、あわせて見直しておきたいところです。なお、日本国内のECサイトでAI発見の脆弱性が悪用された事例は公開情報から確認できないため、この点は要確認とします。
まとめ
AIが脆弱性を大量に見つけても、攻撃が同じ勢いで増えているわけではありません。1.3%という数字は、防御側が先に直せる時間がまだ残っていることを意味します。日本のEC事業者にとっての実務課題は、AIの脅威論に反応することではなく、CMSとプラグイン、管理画面、そして悪用の証拠に基づく優先順位という三つに人員を寄せることです。
参考文献
- VulnCheck State of Exploitation 1H-2026(2026年7月28日)
- CyberScoop: AI-assisted security tools are finding more bugs, but the threat level has not changed
- Infosecurity Magazine: Just 1% of AI-Discovered Vulnerabilities Exploited in the Wild
- LAC WATCH: EC加盟店の脆弱性対策は待ったなし!クレジットカード・セキュリティガイドライン6.0のポイントを解説
- 日本ネット経済新聞: クレジットカード不正被害2025年は510億円
- Anthropic Coordinated Vulnerability Disclosure Ledger
※うるチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴社のEC事業に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
https://uruchikara.jp/contact/
引用元: VulnCheck
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。