フェラーリAIファンアプリで関与62%増、EC事業者の応用論点3つ

F1フェラーリがIBMのAIでファンアプリを刷新しレース週末関与62%増。EC事業者が楽天・Shopifyで応用すべき推し化設計の3論点を解説します。

投稿日: カテゴリー AIニュース

TechCrunchが2026年5月23日に報じたところによると、F1の名門スクーデリア・フェラーリHPが、IBMのAIを組み込んだ新しいファンアプリでレース週末のエンゲージメントを62%押し上げました。単なる試合速報配信から、AIが一人ひとりに合わせて物語を出し分ける「ファン関係インフラ」への作り替えです。一読してまず感じたのは、これは商品を売る側の楽天・Amazon・Shopify運営者にこそ突き刺さる事例だということでした。リピーターを「お客様」から「推し」に変える設計図がそこにありました。

何が起きたか、IBMとフェラーリが2年がかりで作り直したファンアプリ

IBMは2年前、自社のスポーツパートナーシップ群にF1だけが欠けていることに気付き、最も勝ち星の多いチームとしてフェラーリを選びました。同時にフェラーリ側も「head of fan development」という新ポジションを新設し、Stefano Pallardを起用しています。Pallardが掲げたミッションは、ファンに届けることではなく「一人ひとりに、自分のことを分かってくれていると感じてもらうこと」でした。

新しいアプリには、AIが書くレースサマリー、ファン同士で遊べるミニゲーム、ピット裏のエピソード、レース結果の予想機能、そして質問に答えるAIコンパニオンが組み込まれました。地味な改修として、これまでなかったイタリア語表示にも対応しています。IBMのKameryn Stanhouseは、レース週末あたりのエンゲージメントが62%伸びたと明かしました。タイヤ交換が「2秒で24人の同時作業」という裏側の話まで届けることで、ファンの帰属感を高める設計です。

F1のシーズン中はマシンから毎秒数百万件のデータ点が出ています。これを生データのまま見せず、ファンが「自分の物語」として消費できる形に翻訳しているのがIBMのwatsonx基盤の役回りです。フェラーリ側はアプリ内のクリック、滞在、メッセージのセンチメントもAIで分析し、次に出すコンテンツを決めるループに回しています。

日本のEC事業者にとっての論点、楽天とShopifyで効く「推し化設計」

このニュースは、AIをカスタマーサポートや商品説明の自動生成に閉じ込めて使っている日本のEC事業者にとって、痛烈な指摘になります。フェラーリがやっているのは、AIを「コンテンツ自動生成器」ではなく「顧客との関係を一年中つなぐエンジン」として動かすことです。

楽天市場の店舗運営に置き換えてみます。多くの店舗はR-Mailの月数回配信と購入後のサンキューメール止まりです。フェラーリ流に作り直すなら、購入履歴とレビュー文面、お気に入り登録、楽天市場アプリ内での回遊データをまとめてAIに食わせ、顧客一人ひとりに「次に紹介する物語」を出し分ける運用になります。たとえば日本酒店なら、過去に辛口を3本買った顧客には新入荷の山形の特約蔵の話を、ギフト用途で買った顧客には父の日の限定箱の話を、それぞれR-Mail本文の中で違う件名と違う本文で届ける。R-Mailは楽天市場外URLへの誘導が禁止されていますが、楽天市場内の商品ページ・特集ページへの誘導は自由なので、AIによるパーソナライズ送客の余地はかなりあります。

Shopifyや自社ECならもっと自由度が高くなります。Shopify Flowと生成AIを組み合わせれば、顧客のライフタイムバリュー、購入間隔、閲覧カテゴリから「推しレベル」をスコアリングし、上位層には新作の制作ストーリー動画、中位層にはレビュー特集メール、休眠層には再入荷通知という具合に、出し分けの自動化が現実的です。フェラーリでいう「24人のタイヤ交換の話」に相当するのは、自社ブランドなら「この革小物が縫い上がるまでの工房の話」「素材の調達ストーリー」になります。商品スペック表だけでは買い直しは起きません。

F1.comの2025年グローバルファン調査では、新規ファンの75%が女性でGen Z比率も高いと報告されています。日本のEC市場でも、コスメ・アパレル・推し活グッズなどGen Z女性が主力の領域はますます増えています。スペックよりも「自分のことを分かってくれている感」が指名買いの理由になる時代に、AIをファン関係エンジンとして使えるかどうかが、5年後の店舗の地力を分けます。

今後の展望、初動で詰めるべき3つの設計

フェラーリの担当者Pallardは、今後5年の展望として「30年来のファンも30日のファンも、自分のために設計された体験だと感じてもらうこと」と語っています。日本のEC事業者が明日から動くなら、論点は3つに集約できます。

第1に、顧客データを単一テーブルに集約することです。楽天・Shopify・Yahoo!ショッピングを並行運営している店舗の多くが、それぞれの管理画面でデータが分断されたままです。CDPやBIツールに購入履歴・閲覧履歴・メール開封履歴を寄せないと、AIに食わせる燃料が足りません。

第2に、商品コピーではなく「商品周辺の物語」をAIに書かせる運用に切り替えることです。ChatGPTやClaudeに商品名と原材料を投げて型通りの説明文を量産するのは、もう競合と差がつきません。ブランドの背景、生産者、季節、ユースケースをプロンプトに含めて、ストーリーごとに差し替え可能な3〜5パターンの文面を出させ、メール・LP・SNSに使い回す体制が次の標準になります。

第3に、エンゲージメント計測の主役を売上から「再来訪」と「滞在時間」に拡張することです。フェラーリのKPIは「レース週末の関与」であって「グッズ売上」ではありませんでした。EC事業者も、CVRと客単価だけ追っていると、AIがもたらすファン化の伸びを取り逃します。アプリ起動回数、メール開封率、レビュー投稿率、UGC投稿数を主要KPIに格上げすべきタイミングです。

まとめ

スポーツチームが2年がかりで作った「AIファン関係エンジン」は、商品を売るEC事業者にとっての先行事例として読み解けます。レースの中継だけだったアプリを通年で動き続けるファン拠点に作り替えたフェラーリの62%増は、楽天店舗や自社EC運営の店長にとって「ストーリー×AIパーソナライズ」の威力を示す数字です。商品ページの生成AI化で満足せず、顧客一人ひとりに違う物語を届ける運用へ、今期中に一歩踏み出す価値があります。

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引用元: TechCrunch


【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)


投稿者: 齋藤竹紘

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。

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