DeepSeek は2026年7月31日、低価格モデル V4 Flash の更新版「0731」を公開しました。The Decoder によれば、性能指標の Artificial Analysis Intelligence Index で50点を記録し、OpenAI の低価格モデル GPT-5.6 Luna との差はわずか1点、しかし1タスクあたりのコストは約60%安いとされています。7月末に OpenAI が Luna を80%値下げした直後の出来事です。商品説明文の一括生成やレビュー分類のように「大量に安く回したい処理」を抱えるEC事業者にとって、AIコストの前提が1週間で変わったことを意味します。本記事は、EC支援19年・5,000社超の支援実績を持ち、AI導入支援を2023年から提供する株式会社オルセル(うるチカラ運営)が解説します。
何が起きたか:低価格帯の性能が10点上がり、価格差は60%残った
結論から言えば、低価格モデルの実力が一段上がり、そのうえで価格差が広がりました。DeepSeek V4 Flash「0731」は Artificial Analysis Intelligence Index で50点となり、2026年4月に登場した従来版の40点から10点上昇しています。GPT-5.6 Luna は51点相当の位置にあり、差は1点です。それでいて1タスクあたりのコストは約60%低いと報じられています。
コスト差の大きな要因として挙げられているのが、キャッシュ割引率の高さです。DeepSeek は公式の料金ページでキャッシュヒット時に98%引きという水準を示しており、業界標準とされる90%を上回ります。さらに新版は従来版より出力トークン数が12%少なく、同じ処理でも消費量が減ります。単価とトークン量の両方が効いている構図です。
性能面では、実務作業を模した GDPval ベンチマークで1,189から1,559 Elo へ上昇し、とくにエージェント的なタスクでの伸びが大きいと説明されています。ハルシネーション(もっともらしい誤答)も減ったとされています。アーキテクチャは総パラメータ2,840億・アクティブ130億、コンテキスト長は100万トークンで据え置きです。モデルの重みは Hugging Face 上で MIT ライセンスとして公開されています。

日本のEC事業者にとっての論点:安いモデルに「何を」渡すか
日本のEC事業者にとっての論点は、価格そのものより「どの処理を低価格モデルに移すか」の線引きです。楽天市場・Amazon・Shopify・Yahoo!ショッピングのいずれで運営していても、AIに投げる仕事は大きく2種類に分かれます。1つは商品説明文の下書き、レビューのカテゴリ分類、問い合わせメールの一次要約のように、件数が多く1件あたりの判断が軽い処理です。もう1つは価格改定の意思決定、規約違反リスクの判定、クレームの謝罪文のように、間違えたときの損失が大きい処理です。
前者は今回のような低価格モデルの主戦場です。3,000商品の説明文を一括で下書きする、月5,000件のレビューを不満カテゴリ別に仕分ける、といった処理は、単価が6割下がれば月次のAI費用がそのまま体感で変わります。とくにキャッシュ割引が効くのは、同じ前提条件(ブランドのトーン規定、禁止表現リスト、カテゴリ定義)を毎回プロンプトの先頭に置く運用です。EC業務のバッチ処理はまさにこの形なので、割引の恩恵を受けやすい部類に入ります。
一方で後者を安いモデルに丸ごと移すのは危険です。薬機法や景品表示法に触れる表現の判定、真贋や規約違反の疑いがある出品の判断は、誤答1件のコストが月額利用料を軽く超えます。ここは高性能モデルに残し、人のチェックを外さないという判断が現実的です。なお中国系モデルを業務で使う場合、取引先との契約でデータの取り扱い先が制限されているケースがあります。顧客情報や仕入価格を含むデータを渡す前に、自社の秘密保持契約と各モールの規約を確認してください(自社の契約条件は要確認)。
今後の展望と初動アクション
今後も低価格帯の性能向上と値下げは続くと見るのが自然です。7月だけで OpenAI の80%値下げと DeepSeek の性能更新が並んだことは、価格が競争軸に移ったことを示しています。EC事業者側の初動としては、次の3つが現実的です。
第一に、自社がAIに投げている処理を「大量・低リスク」と「少量・高リスク」に仕分ける作業です。棚卸しさえできていれば、モデルが入れ替わっても差し替えは設定変更だけで済みます。第二に、プロンプトの共通部分を固定化してキャッシュが効く形に整えることです。ブランドトーンや禁止表現リストを毎回同じ順序・同じ文面で先頭に置くだけで、請求額は変わります。第三に、乗り換え前に自社データ100件程度で精度を比較する社内ベンチを作ることです。ベンチマークの点数と、自社の商品カテゴリでの使い勝手は一致しないことがあります。
まとめ
低価格モデルの性能が上がり、価格差は約60%残りました。EC事業者がまずやるべきは、モデルの乗り換えそのものではなく、処理をリスク別に仕分けて「安いモデルで足りる仕事」を明確にすることです。仕分けができていれば、次に値下げが来たときも数日で追従できます。
参考文献
- The Decoder|New Deepseek Flash model matches OpenAI’s GPT-5.6 Luna at roughly 60 percent lower cost
- Artificial Analysis|DeepSeek V4 Flash モデルページ
- DeepSeek API Docs|Models & Pricing
- Hugging Face|deepseek-ai/DeepSeek-V4-Flash-0731
※うるチカラでは、生成AIの導入支援から運用最適化まで、貴社のEC事業に合わせたカスタマイズ提案を行っています。無料相談(30分)も実施中ですので、お気軽にお問い合わせください。
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引用元: The Decoder
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。