Googleは2026年7月28日、Gemini APIのマネージドエージェントに実行フックを追加しました。
エージェントに業務を任せたいけれど、勝手に価格を書き換えられたら困る。この不安に対する回答が、今回の更新に含まれています。Googleが公開したのは、エージェントがサンドボックス内で道具を呼び出す前後に自作スクリプトを差し込める仕組みと、トークン上限、定期実行、無料枠での利用です。EC運用の自動化を「試す」段階から「本番に置く」段階へ進めるための部品がそろった、と読むのが妥当です。本記事は、EC支援19年・5,000社超の実績を持ち、AI導入支援は2023年から提供する株式会社オルセル(うるチカラ運営)が解説します。

Gemini APIのマネージドエージェントに追加された4つの機能
今回追加されたのは、環境フック、モデル選択、無料枠、そしてコスト・自動実行系の機能です。Google公式ブログ(2026年7月28日、Google DeepMindのPhilipp SchmidとMariano Cocirioによる投稿)が発表しました。マネージドエージェントは、隔離されたクラウドサンドボックスの中で推論、コード実行、パッケージ導入、ファイル管理、Web取得までを1回のAPI呼び出しで進める仕組みです。
実務への影響が最も大きいのは環境フックです。環境に .agents/hooks.json を置くと、pre_tool_execution(道具の実行前)と post_tool_execution(実行後)のタイミングで、指定したスクリプトが走ります。実行前のフックが {"decision": "deny", "reason": "..."} を返すと、その道具呼び出しはスキップされ、拒否理由がモデルの文脈に渡ります。つまり、エージェントに「やらせない操作」を人間側のコードで定義できるということです。対象は正規表現で指定でき、code_execution|write_file のように複数指定も、* で全件も選べます。実行後のフックには、生成コードの整形や監査、外部エンドポイントへの送信を割り当てられます。
既にこの仕組みを本番の検証工程に組み込んでいる企業もあります。AIを前提に設計された投資銀行OffDealのFounder兼CTOであるAlston Linは、公式ブログのコメントで「フック導入前は、サンドボックスがリモートにあるため検証コードを走らせる場所がありませんでした」と述べています。同社は資料に載せる30点超の企業ロゴを、実行後フックで画素レベルまで検証しているとのことです。
モデルは3.6 Flashが既定に、コストは上限で止められる
2つ目の変更は、既定モデルがGemini 3.6 Flashになった点です。antigravity-preview-05-2026 エージェントは、コードを一切変えなくても次の実行から3.6 Flashで動きます。3.6 Flashは7月21日公開のモデルで、Artificial Analysis Indexの計測では3.5 Flashと比べて出力トークンを17%削減し、価格は入力100万トークンあたり1.50ドル、出力100万トークンあたり7.50ドルです。より安く速く回したい処理には、入力0.3ドル・出力2.5ドルのGemini 3.5 Flash-Liteを agent_config.model で明示指定できます。

3つ目がコスト制御です。マネージドエージェントは自律的に何度も往復するため、複雑な指示ほどトークンを食います。agent_config に max_total_tokens を渡すと、入力・出力・思考の合計に上限を設けられます。上限に達すると処理は安全に一時停止し、status: "incomplete" が返り、環境の状態は保持されます。previous_interaction_id を渡せば、新しい予算で続きから再開できます。暴走して請求が跳ねる前に止まる設計です。
4つ目は自動実行と無料枠です。スケジュールトリガーは、エージェント・環境・プロンプト・cron形式のスケジュールを1つの資源として束ね、人手を介さず定期実行します。各実行は同じサンドボックスを再利用するため、ファイルが実行間で残ります。さらにマネージドエージェント自体が無料枠のプロジェクトでも使えるようになり、課金を有効にしていないプロジェクトのAPIキーで試せます。環境の一覧・確認・削除を行うEnvironments APIも用意され、7日間の自動失効を待たずに後始末できます。
日本のEC事業者が今日から考えるべき3つの設計
EC運用にエージェントを置くなら、この4機能は「安全装置」として組み合わせて設計するのが現実的です。具体的には次の3点です。
1つ目は、取り返しのつかない操作を実行前フックで止めることです。楽天市場のRMSやAmazonセラーセントラルに反映するCSVの生成までをエージェントに任せ、アップロードや価格の書き換えは人の承認を挟む。この線引きを、口頭の運用ルールではなく pre_tool_execution の拒否条件としてコードに書けるようになった点が重要です。書き込み系の道具名を正規表現で指定して落とすだけでも、事故の芽はかなり減ります。
2つ目は、定期実行を「毎朝の目視作業」から順に置き換えることです。前日の受注データの異常値抽出、在庫僅少商品の一覧化、広告レポートの差分要約といった、判断より収集と整形が中心の作業から始めるのが安全です。同じサンドボックスが再利用されるため、前日の出力を踏まえた差分レポートも組めます。
3つ目は、コスト上限を先に決めることです。エージェントは人間と違い、迷えば迷うほどトークンを消費します。処理1回あたりの max_total_tokens を決め、無料枠で挙動を確認してから課金プロジェクトに移す。この順番であれば、費用の見積もりを立てないまま本番に置く事態を避けられます。モデルを3.5 Flash-Liteに落とすかどうかも、上限を決めてから精度と突き合わせて判断するほうが早いです。
なお、これらは開発者向けAPIの機能であり、管理画面から設定できるノーコードの仕組みではありません。社内にコードを書ける人がいない場合は、外部の開発リソースが前提になります。日本語ドキュメントの整備状況や日本リージョンでの提供条件は個別に確認が必要です(要確認)。
まとめ
Gemini APIのマネージドエージェントは、実行フック、トークン上限、定期実行、無料枠の追加によって、実験用から本番運用向けの部品に近づきました。EC事業者にとっての要点は、エージェントに何をさせないかをコードで定義できるようになったことです。まずは無料枠で、書き込みを伴わない集計作業から試すのが現実的な入口になります。
参考文献
- Google, Gemini API Managed Agents: 3.6 Flash, hooks, and more
- Google, Introducing Gemini 3.6 Flash, 3.5 Flash-Lite, and 3.5 Flash Cyber
- Google AI for Developers, Agents Overview
- Google AI for Developers, Agent hooks
- Google AI for Developers, Pricing for agents
関連記事として、Gemini 3.6 FlashのEC運用コストへの影響、Antigravity 2とマネージドエージェントAPIでのEC業務自動化、Claudeのマネージドエージェントを業務に組み込む考え方もあわせてご覧ください。
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引用元: Google
【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。