Shopee・TikTok Shopとは、東南アジアを中心に伸びる越境ECの主要販路のことです。
日本のメーカーや小売が越境ECの販路を選ぶとき、これまでは「Amazon Global SellingかeBayか」というおおむね二択でした。その前提が、ここ1〜2年で崩れています。Shopeeが東南アジアで生活インフラ化し、TikTok Shopが動画から購買へ一直線につなぐ売り場として日本ブランドの海外展開に食い込み始めました。本記事は、Shopee・TikTok Shop・Amazon Globalの三者が2027年以降にどう伸び、どこが縮むのかを、比較表ではなく地殻変動の読みとして整理します。販路を一つに絞るべきか、複数に張るべきかという経営判断の土台にしてください。
いま越境ECの売り場で起きている地殻変動
最初に押さえるべきは、越境ECの主役が「検索して買う場所」から「見ていて買う場所」へ広がったことです。Amazon Global Sellingは検索起点の購買、つまり買い手が欲しいものを言葉で探す行動に最適化された販路でした。ここにTikTok Shopが、動画を見ているうちに欲しくなって買う、という別の動線を持ち込みました。Modern Retailの報道では、複数のブランドがTikTok Shopを海外展開の入口として使い始めたことが伝えられています。日本ブランドの越境でも、検索とコンテンツの二つの入口を別々に設計する必要が出てきました。
Shopeeの存在感も無視できません。東南アジア各国では、Shopeeが日常的な買い物の場として根づき、価格と配送の体験で現地のEC習慣そのものを形づくっています。日本の事業者にとってのShopee・TikTok Shopは、単なる出品先の追加ではなく、現地の購買文化に合わせて商品の見せ方と価格設計を組み替える対象です。現場で繰り返し見るのは、Amazon向けに作った商品ページとコピーをそのまま流用し、現地の文脈に合わず反応が鈍るパターンです。販路ごとに買い手の行動が違うという前提を、最初に経営判断へ織り込む必要があります。
もう一つの変化は、各国の制度面です。少額輸入貨物の関税優遇、いわゆるデミニミスの見直しが各地で進み、これまで小口配送で成立していた価格モデルが揺らいでいます。直近では欧州連合が少額貨物の免税枠を縮小する動きを見せ、越境の前提コストが上振れしました。販路の伸びを読むうえで、技術や流行だけでなく、制度の変化が同時に効いてくるのが2026年の特徴です。越境の物流コストをどう抑えるかは、越境EC物流サービスの比較記事で整理した配送手段の選び方とあわせて考える論点になります。
構造変化を動かす3層のメカニズム
この地殻変動を、技術・市場・規制の3層に分けて因果を見ておきます。表層の流行だけを追うと、来年には逆の動きに振り回されるためです。
技術層では、生成AIと動画生成の普及が、コンテンツ起点の販路を後押ししています。商品紹介の動画や多言語の説明文を低コストで量産できるようになり、TikTok Shopのようなコンテンツ依存の売り場に、人手の限られた中小事業者でも参入しやすくなりました。これは検索起点のAmazonに対して、コンテンツ起点の販路の参入障壁を下げる方向に働きます。一方で、誰でも作れるようになったぶん、動画の質と頻度で差がつく競争に変わっており、量産だけでは埋もれます。
市場層では、東南アジアの中間層拡大とスマートフォン決済の浸透が、ShopeeやTikTok Shopの土台になっています。現地の購買力が上がり、少額の買い物がアプリ内で完結する習慣が定着したことで、現地通貨建てで気軽に買える販路が伸びました。日本ブランドにとっては、価格の絶対値だけでなく、現地の所得水準に合った価格帯と支払い方法を用意できるかが、参入の成否を分ける変数になります。
規制層では、前述のデミニミス見直しに加え、各国のプラットフォーム規制やデータ・決済のルール整備が進んでいます。これは販路の伸びに対してブレーキとアクセルの両面で効きます。規制が強まれば小口配送モデルは不利になりますが、ルールが整うことで現地倉庫を持つ事業者や正規流通の信頼が相対的に高まる面もあります。上位記事の多くは販路ごとの機能比較で止まっていますが、伸び縮みを読むには、この3層が同時に動いている前提で考える必要があります。
2027・2028・2029年の展開シナリオ
ここから先は予測であり、いずれも目安として捉えてください。確定情報ではなく、現時点で観測できる動きから引いた見立てです。上位・中位・下位の3つのケースで整理します。
2027年は、TikTok Shopの拡大が続く中位ケースが最も現実的だと見ます。動画から購買への動線が定着し、日本の中小ブランドの越境参入が増える一方、各国の規制対応に追われる場面も出ると考えます。上位ケースでは、TikTok Shopが主要市場で一気に主流化し、Amazon Globalと並ぶ二強構造が前倒しで訪れます。下位ケースでは、規制やプラットフォーム側の方針変更でTikTok Shopの拡大が踊り場に入り、Amazon Globalの安定感が再評価されます。
2028年は、Shopeeの地盤である東南アジアで、価格競争と物流の成熟がさらに進むと見ます。中位ケースでは、Shopeeが現地の生活インフラとしての地位を固め、日本ブランドは価格と配送をそこに合わせる前提での出店が標準になります。上位ケースでは、現地倉庫やローカライズに投資した日本事業者が現地ブランドとして定着します。下位ケースでは、価格競争の激化で薄利のまま消耗する事業者が増え、撤退も目立つ展開です。
2029年に向けては、検索起点とコンテンツ起点の二つの入口を両方押さえた事業者が生き残る、という構造に収れんしていくと予測します。Amazon Globalが検索の信頼基盤として残り、TikTok Shopがコンテンツの入口を担い、Shopeeが特定地域の生活導線を握る。単一販路にすべてを賭ける戦略は、どのシナリオでもリスクが高いという点は共通します。越境ECそのものの全体像は越境ECとは何かを整理した記事も土台として読んでおくと、各販路の位置づけがつかみやすくなります。
どのシナリオでも効く共通の打ち手
シナリオごとに賭け方を変える前に、どの展開になっても効く打ち手を先に固めるのが定石です。
第一に、商品情報の構造化です。商品名・特徴・素材・サイズ・使い方を、販路をまたいで使える形で一度きれいに整理しておきます。これがあれば、新しい販路が伸びたときに横展開の初動が速くなります。第二に、多言語コンテンツの内製体制です。翻訳と動画生成をAIで回せる体制を社内に持つと、コンテンツ起点の販路が伸びたときに外注待ちで出遅れずに済みます。第三に、現地通貨と現地決済への対応です。価格の絶対値だけでなく、現地の所得水準に合った価格帯と支払い手段を用意できるかが、参入の歩留まりを左右します。
第四に、物流の二段構えです。小口配送で薄く広げる段階と、現地倉庫で厚く攻める段階を、販路の伸びに応じて切り替えられるよう設計しておきます。デミニミス見直しのような制度変化が来ても、小口一本足だと価格が崩れますが、倉庫への移行余地を持っていれば対応できます。これらはShopee・TikTok Shop・Amazon Globalのどれが伸びても効く土台であり、販路選定の前にそろえておく順序が望ましいと判断します。
淘汰される店舗と生き残る店舗の境界線
最後に、個別の店舗が淘汰される側に回るか、生き残る側に回るかの境界線を、チェックリストの形で示します。
生き残る側に共通するのは、まず販路ごとに買い手の行動が違う前提で見せ方を変えていることです。Amazon向けの検索最適化と、TikTok Shop向けのコンテンツ設計を、別の仕事として分けて運用しています。次に、商品情報が構造化されていて、新販路への横展開が速いこと。そして、現地のローカライズに最低限の投資を続けていることです。
淘汰される側に共通するのは、一つの販路で当たった成功体験を、別の販路にそのまま持ち込んで反応が鈍ること。コンテンツの量産だけで差別化できると考え、質と現地適合をおろそかにすること。制度変化を前提に入れず、小口配送の薄利モデルだけに依存していることです。Shopee・TikTok Shopが伸びるかどうかという問いの前に、自社がこの境界線のどちら側にいるかを点検するのが、経営判断としての出発点になります。
よくある質問
Shopee・TikTok Shop・Amazon Globalのどれから始めるべきですか
自社商品の買われ方によります。検索で指名買いされやすい商品はAmazon Global、ビジュアルや使用シーンで魅力が伝わる商品はTikTok Shop、東南アジアの日常消費に合う価格帯ならShopeeが入口の候補です。一つに絞るより、土台を整えてから2つ目に広げる順序が現実的です。
TikTok Shopは一過性の流行ではないですか
流行の側面はありますが、動画から購買への動線そのものは定着しつつあると見ます。ただし規制やプラットフォーム方針の変化で拡大が踊り場に入る下位ケースもあり、単独依存は避けるのが安全です。あくまで複数販路の一つとして位置づけるのが妥当です。
中小規模でも越境ECの複数販路は回せますか
商品情報の構造化と、AIを使った多言語コンテンツの内製体制があれば、人手が限られていても複数販路の横展開は現実的になりました。逆にこの土台がないと、販路を増やすほど運用が破綻します。販路数より先に、土台の整備を優先してください。
Amazon Globalはこれから縮むのですか
縮むというより、検索起点の信頼基盤として残ると見ています。コンテンツ起点の販路が伸びても、指名買いや比較検討の最終地点としての役割は残る公算が大きいです。二者択一ではなく、役割分担として捉えるのが実態に近いと考えます。
制度変化のリスクにはどう備えればよいですか
小口配送一本に依存せず、現地倉庫への移行余地を設計に組み込んでおくことです。デミニミス見直しのような制度変化が来ても、物流の二段構えがあれば価格モデルを組み替えて対応できます。制度は技術や流行と同時に効く変数として、最初から計画に入れておくべきです。
著者:齋藤竹紘(株式会社オルセル 編集長/5,000社以上のEC支援実績/書籍3冊)
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【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。