Nikeが約9.9億ドルの関税還付見込み|越境EC事業者の3つの論点

Nikeが約9.86億ドルのIEEPA関税還付を見込むと発表。米最高裁の違憲判断を背景に、越境EC事業者が確認すべき輸入者の立場や通関記録、還付請求の論点を解説します。

投稿日: カテゴリー AIニュース

Nikeが、米国のIEEPA(国際緊急経済権限法)にもとづいて支払った関税について、約9.86億ドルの還付を見込んでいることを明らかにしました。Modern Retailによると、この還付見込みが2026会計年度第4四半期の粗利益率を大きく押し上げたとのことです。米国に商品を輸入して販売する越境EC事業者にとって、これは「払い過ぎた関税が戻ってくるかもしれない」という実務に直結する話です。本記事では何が起きたのかと、日本のEC事業者が確認すべき3つの論点を整理します。

何が起きたか:Nikeの粗利率を900bp押し上げた関税還付

Nikeが2026年6月30日に発表した第4四半期(2026年5月31日締め)決算では、粗利益率が前年同期比890ベーシスポイント改善して49.2%になりました。会社側の説明によると、この改善は「IEEPA関税の回収見込み」が主因で、約9.86億ドルの還付見込みだけで粗利率をおよそ900ベーシスポイント押し上げたとしています。

内訳は、北米事業が9.65億ドル、Converse事業が2100万ドルの還付を見込むというものです。純利益は11億ドル、希薄化後EPSは0.72ドルとなり、このうち0.52ドルがIEEPA還付の寄与でした。決算資料では、5月31日時点で3億ドル超の現金をすでに回収済みで、残りは売掛金として計上し回収を待っている段階だと説明されています。つまり、まだ全額が入金されたわけではなく「回収を見込んで会計上先に反映した」という点は要確認のポイントです。

なお、Nikeはこれ以前には関税の年間コストを15億ドル規模と見込んでいました。関税が重荷になっていた企業が、今度はその一部の還付で利益が底上げされるという構図の反転が起きています。

なぜ越境EC事業者に関係するのか:最高裁がIEEPA関税を無効と判断

この還付の背景には、米連邦最高裁の判断があります。2026年2月20日、最高裁は6対3で、IEEPAが大統領に対して無期限・広範な関税を一方的に課す権限までは与えていないと判断しました。congress.govやHolland & Knightの解説によると、この判断はただちに全額返金を命じたものではないものの、違法に徴収された関税として還付請求の道を開いたものと受け止められています。これまで輸入者が支払ってきたIEEPA関税は総額で推計1750億ドル規模とされ、その扱いが焦点になっています。

還付の実務も動き始めています。米税関・国境警備局(CBP)はCAPEと呼ばれる請求ポータルを通じて、輸入者(importer of record)または認可を受けた通関業者がCSVファイルをアップロードしてIEEPA還付を請求できる仕組みを整えつつあります。システムが該当するHTS番号を自動的に除外して関税を再計算し、対象となる通関記録を再清算して電子的に還付する流れです。ここで重要なのは、還付を受け取れるのは原則として「輸入者(importer of record)」だという点です。日本のEC事業者が米国向けに販売する際、誰が輸入者になっているかで、還付の恩恵を受けられる立場かどうかが変わります。

Amazon USなどの米国マーケットプレイスに在庫を送り込んでいる事業者、DDP(関税元払い)で発送している事業者、米国子会社や現地3PL経由で通関している事業者では、それぞれ輸入者の立場が異なります。自社が過去に支払った米国関税のうち、IEEPAにもとづくものがどれだけあるかは、通関書類(entry summary)を確認しなければ分かりません。

越境EC事業者がとるべき初動:3つの論点

第一に、自社の米国向け輸入で「輸入者が誰か」を確認することです。還付請求は輸入者または通関業者が行うため、現地パートナーやマーケットプレイス任せにしている場合、還付が誰の手に渡るのかを契約面から確認しておく必要があります。

第二に、過去の通関記録を洗い出し、IEEPA関税の支払い実績があるかを通関業者に照会することです。対象となる通関が「最終確定(liquidated)していない」ものかどうかで扱いが変わるため、期限や手続きは専門家に確認するのが安全です。制度はまだ流動的で、還付の範囲や時期は要確認の状態が続いています。

第三に、これは米国の話であって、日本や他国の関税・輸入消費税とは別だと切り分けることです。前回取り上げたEUの少額貨物免税廃止のように、地域ごとに制度は逆方向に動いています。米国のIEEPA還付を過度に一般化せず、販売先ごとにコスト構造を見直すことが、越境ECの利益管理では欠かせません。

まとめ

Nikeの約9.86億ドルという還付見込みは、米国のIEEPA関税をめぐる潮目の変化を象徴しています。日本の越境EC事業者にとっては、自社が輸入者として払った米国関税に還付の余地がないかを、通関書類にさかのぼって確認する好機です。ただし制度は流動的で「見込み」の段階に留まる部分も多いため、断定せず専門家と確認しながら、販売地域ごとにコストを再点検する姿勢が求められます。

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引用元: Modern Retail


【監修】齋藤竹紘(株式会社オルセル代表 / 19年・5,000社のEC支援実績)


投稿者: 齋藤竹紘

株式会社オルセル代表取締役 / うるチカラ編集長。19年・5,000社以上のEC支援実績を持ち、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピング・Shopify・Shopee越境ECの実装ノウハウを保有。AI×ECに関する書籍を3冊執筆。「現場で使えるAI実装」を一次情報として発信しています。

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